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変革期におけるトップマネジメントの本質
第2節 リーダーシップ
【リーダーシップ】(インタビュー内容)
@(モチベイション)
あなたは、部下の方のやる気を引き出すため、最も配慮されている事はなんですか?
A(トップのリーダーシップ)
ロア・マネジメントやミドル・マネジメントのリーダーシップと比較した場合、トップのリーダーシップの特徴は何だとお考えですか?
B(理想的リーダー像)
これからの激動の時代において、最も理想的なリーダー像とは、どのようなものだとお考えですか?具体的に、歴史上の人物あるいは 有名な経営者の方お一人の名前を挙げてお答え下さい。
@モチベイション
『上司−本人−部下』という、一般の縦のつながりのなかで、やる気を引き出す、いわゆる『モチベイション(動機付け)』は、実にいろいろな形で語られて来たが、今回はその対象をトップ・マネジャーに絞り、その真髄に迫ろうというものである。
ここでのキー・ワードは、意外にみなさんに共通するもので『まかせる』という事であった。ここでリーダーシップの要点をまとめた言葉として、日鉄商事の小野常務のお言葉をお借りすることとしたい。『リーダーシップのポイントは5つあります。第一に部ココ笠握(信賞必罰で部下を充分に掌握せよ。)、第二に仕事の分配(能力の2割余分の仕事を与え、自信とやる気をつけさせよ)、第三に結果の評価(仕事の達成度をチェックせよ。)、第四に、能カの把握と指導(結果の評価に基っいて、その長短の把握をし、それを伸ぱすべき適切な指導を行う)、最後に5番目として『まかせる』という事でしょう。やはり『まかせる』ということがないと、本人がその気になって主体性・自信を持って仕事は出来んでしょう。』
このお言葉でほぼ言い尽くされた感もあるが、この『まかせる』ということで、人々のやる気と自信、そして仕事における達成感も与えることが出来よう。またA.H.マスローの言う、自己実現の欲求を充たし、より人間らしさを輝かせ、完全燃焼するためにも、やはりこの『まかせる』精神こそが、その第一歩であり、そのすべてでもあろう。
しかし、ここで一口に『まかせる』といっても一石一烏で、うまくいくものでもない。まず第一に、社内に『まかせる』に値するだけの『人材力』があるかどうかという問題が存在する。またその人材を育てるための、『人材育成』の問題。そしてまた、その中から『出来る人材』を見つけ出す『人材鑑定力』なども必要になってくる。
そして何よりも、下に『まかせる』勇気と決断、また相互の信頼関係ならぴに、トップ自らの人間的度量の犬きさも、この『まかせる』ことの前提として必要となるだろう。
ただここで留意すべきは、(今回の調査で明かとなったが、)表現の違いこそあれ、とにかくトップ経営者の殆ど総てが『やる気を引き出すためには、"まかせる"ことだ。』と語った事実にこそある。
Aトップのリーダーシップ
意外なことに従来、"最高経営者のリーダーシップ"というのはアカデミックな学問の対象となる事は、極めて希少であったといえる。これも無理からぬことで、学間の世界にいる人間には、こうしたトップの方々にお会いする機会も少ないし、またトップのビヘイビアー(日常行動)そのものがP.F.ドラッカーも指摘するように、多様性に富むもので学問的に体系化するのは、非常に困難な作業だからでもある。しかし今回の調査では、こうした点を考慮した上で、アプローチしようというものである。まず、トップのリーダーシップということで、みなさんのお語しをまとめると、以下の3点に集約できよう。
(1)リーダーシップの本質は同じ。
トップであろうと、ロアやミドルであろうと、それが『リーダーシップ』ということで考えるならぱ、やはりその本質的な部分には変わりないということが言えよう。
リーダーシップには、大きく分けて2つの機能と3つのプロセスから成り立つといえる。その機能としては、『人と人との調和』や『活性度』を高めるという人間中心的機能、そして合理的に計画統制を行い、組織としての目標を達成していく合理的機能の2つである。
またそのステップとしては、人々を動機づけ(モチベイション)、それを効率よく組織化し(オーガニゼイション)、その組織に目標をあたえ方向づけする(オリエンテイション)という3つのステップがある。このような本質的な部分については、どのリーダーシップであれ、同じだと言うことである。
(2)『先見性』の必要性
驚異的なことだが、7〜8割近い経営者のかたが、『トップ独自のリーダーシップ』の特徴として、この『先見性』をお上げになったのである。もとより、トップ・マネジャーというものは、組織における基本的な方向づけを行うことが主要な任務でもある。歴史の流れをつかみ、企業を継続的に繁栄させるためには、トップの判断の誤りは、それこそ企業にとって命取りになる。そのためトップは常に先を見通し、時代を先取りした『新しい芽』を育てていく必要がある。
しかし、こうした先見性といっても簡単に培うことは、出来ないだろう。
みなさんのお話しによれぱ、先見性のためには2つあるといえる。第一に、『物の本質』を見極める目をもつことてある。『先を見る』ということは、すなわち『経営の本質とは何か』、『人間の本質とは何か』ということを、単に知識の上の問題ではなく、その体でもって体得することであると、いうことである。そうした中から本当の意味での"先"を読む力も出てくるのであろう。
本質を見ることとならんで、もう一つ上げられることは、『一段高い次元から物を見よ。』ということである。ツガミの大山社長のたとえをお借りすると、『先を見るということは、ちょうど高い火の見櫓のうえから、遠くの方を見るのと同じで、先を見ようと思ったら、常により高い所、より高い次元からものをみなけれぱなりませんね。』ということである。企業の将来は業界の将来から、業界の将来は産業界全体から、そして産業界の未来は国の未来からというように、常により大きな、そしてより高い次元からみることが、一つの先を見るための重要な視点といえるであろう。
(3)『戦略意識』の必要性
企業とは、(それが目的であれ、手段であれ)利益追求のための合理的な利害組織である以上、利益をあげることは至上命令である。また正当な営業活動を行っている以上、利益をあげられないということは、まさしく罪悪に他ならない。企業にとって利益を上げるためには、当然そこには何等かの戦略・戦術が必要となってくる。企業目漂を達成するため、自らの経営資源がどれほどあるかを把握し、外部の環境変化をとらえながら、最も有効な道を選択し、実行していく。こうした経営に不可欠な要素である『戦略意識』こそ、一つの企業に方向を与え、導いていくべきトップにはどうしても欠かすことの出来ないものである。今回の調査においても、先に上げた先見性と並んで、この『戦略意識』を上げられる方が最も多かったのも、まさに当然といえるであろう。
B変革期における理想的リーダー像
今回の調査においては、『これからの激動期において最も理想的なリーダーとは?』という質問によって、おこなわれたわけであるが、この場合における『変革期』ないしは『激動期』という言葉に対するイメージが各人各様に異なっていることが指摘できる、それではここで、これからの主な変化を拾ってみよう。まず第一に、景気変動・企業間競争・技術革新・消費者二一ズの変化などの環境変化が益々急速になり、また予測が困難になるということが言える。第二に、企業内部の環境変化として大きいものは、何といっても組織内部における従業員ほか、人々の価値感や意識の変化といったものであろう。つまり、戦後経済の復興期また高度経済成長期におけるように、経済一辺倒の価値感から、より多様化した価値感をもち、どちらかというと人間としての生きがいや充実感を求めるようになり、管理社会といわれる現代において人間性を少しでも回復しようという傾向にあると言えよう。
この二つの環境変化が主要な変化であるといえるが、しかしここで非常に大きな問題が存在する。すなわち、二つの環境変化にたいして、適応するためには、全く正反対の対策なりリーダーシップが必要だということである。
まず最初の環境変化である企業の外部環境の変化であるが、この場合、考えられることとして(1)環境変化が激しいため、より一層敏速な対応が求められるであろう。(2)また不確実な環境下での対応ということになると、敏速性のほかにもトップの先見性を中心に思い切った対応が期待されるところである。こうしたことを考えると、外部環境の変化にたいしては、どちらかというとトップ自らのカリスマ性ならびに、人間的な魅力で引き付け、その旗印の下、強力なリーダーシップが効果的だということになる。
これにたいして、企業内の人々の価値感の変化にたいして、いかに適応を図るかという問題であるか、経営者の方々の壮話しをまとめると、様々な価値感を持ったものが集まった組織内では、トップが強引にそれらを一つにまとめようと思うと、必ずと言っていいほど反発が生まれる。また人間性あるいは自已実現を求めている人々に対しては、むしろ進んで仕事をまかせ、『自分が主役』というような主体性、また仕事を通して得られる達成感などを与える必要があるといえる。つまり企業の内部の変化に対しては、人々の意見を積極的に取り入れる民主性・合理性などが必要であり、またボトムアップ体制を押し進める必要があろう。
このように、同じこれからの環境変化でありながら、その対応策ということになると、内外の環境別に全く異なるのである。問題は、これら二つの対応策を同時に充たしうるような『妙案』はないか、ということであろう。これにたいして従来、プロダクトマネジャー制度・マトリクス組織、また最近ではホロニック・マネジメントであるとか、あるいは水平的ネットワーク組織の導入など、実に様々な議論がなされている。
これにたいしてリーダーシップの視点から論じたものとしては、ブルーや鎌田氏のいうように、共に共通する価値感・理念を持ち、イメージを沸き立たせ、夢を持ちながら目標に向かって進む、というのが主なものである。これは従来のリーダーシップがどうしても強引なものとなり、部下にたいしてストレスや疎外感、また反抗心を与えるものであったという点を是正したものだといえる。
今回の調査結果を総合的にとらえると、この二つの対策を融合する『妙案』としては、まずトップは強固な経営理念をもち、それを組織内部に周知徹底させることによって、各自に目指すべきゴールを自覚させる。その時トップは人間的魅力を持つことにより、部下を引き付けるカリスマ性を持ちつつ、組織の重要な基本方針についてはトップ・ダウン型のリーダーシップを取る。
しかしこうした一方で、その他の課題については、責任・権限を極力下に委譲し、『まかせる』ことによってボトム・アップ型のリーダーシップを同時に併用するという一混合型リーダーシップの有効性を説かれる方が多い。
この混合型リーダーシップを行うために、トップは多様な人間性を認める合理性と・組織全件を強く感情的に盛り上げる人間的魅力、宗教的カリスマ性とを同時に持ち合わ芦ることが不可欠となる。
今回の調査で、こうした『変革期のリーダー』の具体的な理想像として、取り上げられた中で、もっとも特徴的であったのは、回答者の半数以上が、HONDAの本田宗一郎氏を上げられたことである。自らは天才的技術者として、新製品開発に没頭するかたわら、藤沢武夫氏との絶妙なコンビネーションによって、数々の経営危機を乗り越え、今日のHONDAを築き上げた功績は、松下幸之助氏とならんで、まさしく戦後日本の最大の立志伝中の人物である。しかし、『何故いま本田宗一郎なのか』という疑問が存在する。名経営者ということであれぱ、先にあげた松下幸之助氏をはじめとして、土光敏男氏、盛田昭男氏、稲盛和夫氏など数え上げれぱ切りがないのだが、しかしこれからの『変革期のリーダー』ということになると、何故か本田宗一郎、その人なのである。
それでは、ここで本田宗一郎氏を選んだ経営者の言葉をいくつか拾いあげてみると『変化にたいして、恐れない資質』、『自由で合理的な精神』、『若者の心をつかむ』、『純粋で、遊ぴ心がある。』、『旺盛なチャレンジ精神』、などである。これらは、先に述べた『変革期のリーダー』に必要なものにすぺて集約されてこよう。またこのことは、これからのリーダーシップを考えるうえで、大きな指針となろう。
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