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変革期におけるトップマネジメントの本質
第1節 経営理念
今回のインタビュー調査では、あくまで日頃から経営にダイレクトに表現されている経営者の皆様方の偽りのない胸の内をストレートにつかみだしたい、経営の本音の部分を引き出したいというねらいから、事前に調査の内容を先方に伝えることなく、その都度『ぶっつけ本番』でインタビューを行ってきたわけである。
しかし、そうした事情にもかかわらず、極めて意外な結果になったのである。というのは、『全く同じ言葉が帰ってきた。』ということである。確かに個性豊かな経営者の方々ばかりで使う言葉としては、その人その人によって変化に富んでいるが、しかしその内容その真髄というのは、全く符号を同じくしていたわけである。これは、『経営理念』・『リーダーシップ』・『21世紀の日本』3つのテーマ総てに通じて言えることである。これについて、以下順次述ぺていこう。
まず経営理念においては、大きく2つの答えに分類できる。すなわち、一言で経営理念といっても、『何故、経営を行うのか?(Why do you
manage?)
『どのようにして、経営を行うのか?(How do you manage?)』という、つまり"Why"と"How"の2つの経営理念が存在するということである。
@"Why"の経営理念
『何故、経営を行うのか?』という場合、基本的に単なる『利潤追求』に止どまることなく、積極的に『貢献し、利益を還元しよう。』という理念が根底にあるといえよう。しかし、最も異なっているのは、『誰に、何時、どのように還元するか?』が問題である。
まず『誰に』という問題であるが、これは企業に関与する、人間または組織に対する貢献ということであろう。これには(1)株主(2)従業員(3)消費者(4)地域社会(5)国家(6)人類文明それぞれのレベルの違いこそあれ、みなこうした企業を取り巻く人々に貢献する事が経営の根本的な理念であるといえる。殆どの経営者に共通していえる事は『利潤は、こうした目的を達成するための手段』であるということである。しかし、『実際のビジネスの世界では、この手段を手にするのが至難であって、本来の目的達成は容易な事ではなく、手段の追求に終始してしまう。』と2・3の経営者の方が指摘する通りである。しかし、一般の従業員ならともかく、常に経営をリードする立場にあるトップたる者ならぱ、現実の状態がたとえどうであれ、常に『経営の本質とは何か』を体得していなけれぱならないであろうし、また事実(今回の調査)としてもトップの方々は充分にそのことを把握されていたと言える。
次に『どのように還元するのか』という問題が存在する。上にあげた各関係者にたいし、『株主にたいしては配当で、従業員には貢金で、消費者には安い商品で、地域社会・国家には税金で』という言葉をおっしゃった経営者の方もお見えになったが、しかし同じ貢献にも『積極的貢献』と『消極的貢献』とが存在するものと恩われる。確かに、先程のお言葉も貢献には違いないが、企業としては最低限の責任に過ぎない。勿論、現状の厳しさを考えるなら、こうした最低眼の責任すら満足に果たせないのであるから、やむを得ない事かも知れない。しかし、経営理念というものは単に現状にとらわれたものではなく、未来永劫にわたって繁栄すべき企業を支える基本的な考えかたであって、その点で現状に則した『経営戦略』とは本質的に異なるものであろう。こうした事を考えるならぱ、ただ消極的に責任さえ果たせば良いというものではなく、より積極的に、しかもより多くの、そしてより大きな社会に貢献しよう、というのが理想的な経営理念であるといえる。今回の調査でもやはり積極的な貢献を訴える経営者の方が多かったのが印象的であった。
この事とも合い通ずることであるが、『いつ貢献するか』という間題も、『Takeする前にGiveせよ』いうように、こちらからまず良い商品なり何なりの形で貢献する、その結果が利益として帰ってくるのだ、というのが総合的な意見のようである。
このように企業経営の根幹である『何故、経営するのか』の問いに対しては、『より多くの人々に(より高い次元で)、より積極的に、何よりも先に貢献しよう』というのが総合的な理念であると思われる。
A"How"の経営理念
次に『どのように、経営を行うか?』という問題であるが、これは主に経営を行うにあたっての態度なり、心構えといったものである。これには、大きく分けて2つ存在し、1つは企業経営の上で、どこに重点を置くのか、たとえぱ技術であるとか、経理であるとか、人事であるとか、といった経営上の着眼点の問題であり、もう一つは『チャレンジ精神』であるとか『合理的精神』・『民主的精神』といったような組織の運営にあたっての精神的な在り方に関するものである。
最初の着眼点の問題については、製造業などで特に独自の技術が売り物の企業などでは、『独創的』あるいは『他人にまわの出来ない』と言われる方が多く、またどの業種にも当てはまることとしては、やはり『人聞が資本』ということで人事・労務の問題をあげられる方が多い。中には原価の徹底管理・財務こそ企業の生命だと言われる方もお見えになった。
次に経営上の精神的な問題としては、特に目覚ましい勢いで躍進中の情報産業やハイテク分野の経営者の方々に、『革新性』ないしは『チャレンジ精神』ということを上げられる方が多かったといえる。またどちらかというと、厳しい状態にある修羅場をかい潜って来た方々などは、決まって『合理的精神』という事を言われる方が多い。
このように業種によって、置かれた状況によって持たれる経営理念も異なるということであろう。
また同じ社長でも、創業者と二代目とでは、やはり経営理念も相異があるといえよう。創業者の場合、何もない中を、ただひたすら切り開いてきた『パイオニア・スピリッツ』なり『フロンティア精神』なりを強調されるかたが多く、また二代目・三代目となると総じてバイタリティーで押し切るというよりは、むしろ民主的で、科学的であり、進んで先端技術などを取り入れる新奇性などもあるといえる。しかし、これはどちらが良くて、どちらが悪いというような種類のものではなく、企業の歴史や規模に応じて変わって行くものであり、今回の調査ではそれぞれの持ち昧が活かされていたように思われる。
最後に経営理念ということで忘れてならないのは、『どういう理念を持っているか』ということもさることながら、それ以上に『どれ程、その理念を強く持っているか』そしてまた『その理念を、どれ程会社内に周知徹底させ経営に反映させているか。』ということも、より以上に重要な事であるといえよう。
松下電器の成功の秘密のひとつとして、『経営理念の徹底』があるといわれる。よく松下の人間は、どこを切っても誰と会っても同じだということで、金太郎飴にたとえられるが、しかし逆の言いかたをすれぱ、そうして誰もが同じ理念なり信念なりを持っていれぱ、組織内での対立も少なく、調和が取りやすいし、またそうした理念の徹底があれぱ、松下幸之助と同じ考えの人間がたくさんいて、ある程度その人間の自由裁量で任せることも容易に出来よう。
特に、変革期における経営理念を考えると、複雑化・多様化が進み、企業規模も大きくなっている以上、自然、部下の自主性に任せ、組織もピラミッド型の硬直したものでは環境変化に適応していくことは容易ではない。
そのためには、基本的な部分では押さえておきながら、その他の部分は極力任せなくてはならない。こうした時代にこそ、やはりこの経営理念の徹底が重要になってくるのではなかろうか。
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