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この目で見たアメリカ・テレコム最前線
この目で見たアメリカ・テレコム最前線(1)
―公共分野における情報通信事例研究―
宇佐美泰一郎
1.テレコム新時代の到来
先日、ある科学雑誌に21世紀の想像図というのが載っていた。日本全土をリニアモーターカーがひた走り、屋根の上には太陽電池を背負った新時代の住宅が現れ、バイオテクノロジーで作られたトマトが食卓には並び、各地に作られた快適なリゾート地で家族が笑顔で語らうというようなものであった。
21世紀までカウントダウソと迫った今日、このような想像図は、取り立てて意外なものでもないようである。今日の最先端のテクノロジーをもってすれば、きっと実現できるに違いないものであろう。
情報通信の分野でも全く同じであろう。かつてベルの手によって発明された電話が世に現れた時と同じような変化が出現しはじめたといえよう。いうなれば時代はまさしく「テレコム新時代」。
郵便、電話、電報、FAXという旧来の情報伝達手段に対し、テレピ電話、移動式電話、電子会議、電子メールという新たなコミュニケーショソ・ツールがビジネスに、そして家庭にと徐々に登場しはじめた。
またマスメディアの領域においても、従来の新聞、雑誌、テレビ、ラジオに加え、都市型CATV、衛星放送、文字放送、データベースなど、ますます広域、グロ一バル化、そして瞬時の情報交換が可能となってきた。
勿論、未だすべてが安価で誰でもがもてるというものにはいたっていないが、それも21世紀の入り口ぐらいでは、電話やテレビのように当たり前となっていよう。
しかし興味深いのは、一体それがどのような社会変化をもたらすのか、そしてわれわれの生活や価値観がどのように変わるのか、ということである。
A・トフラーは有名な「第3の波」の中で、人類史の上で現代を農業章命、工業化革命につぐ、情報化革命の時代としてとらえた。はたしてそれがどんな時代なのか、難しい問題である。
2.アメリカ・テレコム最前線
日本は、戦後欧米文化の後を必死にキャッチアップする歴史を繰り返してきた。そしてようや<それらと肩を並べるところにまで来たといえるだろう。
しかし、ことテレコム(情報通信)の分野ではまだまだアメリカとのギャップは大きい。
(私事で恐縮であるが)筆者は昨年まで在籍していた(財)松下政握塾の塾生時代、とくに「テレコムが社会にどういうインパクトを与えるのか」というテーマで半年間のアメリカでの調査を行なった。
この報告は、私のその時の体験をもとにした「この目で見たアメリカ・テレコム最前線」である。
驚異の情報化社会
―米国CATV最前線―
1.CATVの歴史
アメリカにおけるCATVの歴史は非常にふるい。20年以上の歴史というから、もはやニューメディアなどと呼ぶのは、不釣り合いなのかもしれないが、しかし日本人に取ってみれば、「驚異的なニューメディア」に違いない。
もともとCATVというのは、山岳地帯などテレビの電波が届きにくい「難視聴地域」に始まった。電波が届く山上にアンテナを立て、そこから地域の住宅に一軒ずつ有線で番組を送ったのであった。つまり、必要に追られて始めたのが、CATVだったわけである。
これが時代を経ると、地方の小さな都市に広がり、余分にチャンネルが見られるから、ということで広がりを見せだした。中には、各局が独自の番組を作り放送するということも行なわれるようになってきた。
ところが、CATVの場合、各局が独立しており、視聴者の数も限られるので、なかなか3大ネットワークなどに対抗出来るような番組など制作できないし、経営的にも常に厳しい状態にあったわけである。
参考程度に申し上げると、日本で民間の放送局が1日の番組製作にかける費用は約1億円以上といわれる。地方の独立したCATV局が、これだけの資金を集められるわけがない。視聴者から見れば理屈は簡単。「面白くなければ見るわけないよ。」と単純そのもの。
おそらく、ここで終わっていれば、CATVという言葉は非常にマイナーなままに終わっていたのだろうが、大きな変革が起る。
2.CATVの革新
CATVの世界を大きく一変したのが、「通信衛星」の利用であった。1970年代半ば、HBO(Home Box Office)という映画やバラエティー番組などを放送する人気の番組制作会社が、この通信衛星の利用に初めて踏み切ったのであった。
どういうことか簡単に説明すると、その当時番組を放送するCATV運営局は番組制作費が少なく、お客も少なかった。番組を制作し販売する側も、そうした運営局の財政的な貧窮と、対象となる運営局の少なさで、これまたじり貧であった。
これがHBOの後を追い、どんどんと番組制作会社は通信衛星を利用して、各局のCATV会社に番組を供給できるようになる。そして対象となる末端の視聴者の数は、飛躍的に向上する。
運営局側にとっても、これらの番組会社から番組を買って放送できるから、番組制作費は削減できる。お客には、多数の番組を安価で提供できる。結果、視聴者の数も上昇する。とまあ、一気に好循環に変わっていったわけである。
設傭投資に多額の資金がいるCATV運営局であるが、最近ではなんとか滅価償却もおわり、黒宇に転換するようになったのである。
(話は余談であるが)どこの世界にも、よからぬことを考える輩は多いもので、このように通信衛星で送られてくる電波は、いってみればただなのだから、「それなら」と、自宅でパラボラ・アンテナを買って傍受してやろうというのが現れた。そのうえ、商業主義のアメリカらしく、お客がいるならと、スーパーでもこのパラボラ・アンテナを天井から吊して展示し、売り出したから面白い。
ところが、敵もさるもの。今度は電波を飛ばすほうも、スクランブルといって、傍受されてもモザイクになっていて、特殊な機械にかけないときちんと再生できないような仕組みにしたという。
3.情報の宝庫―フェアファックスのCATV―
さて破竹の勢いで浸透していったCATVであるが、この中でどんどんと新しい番組制作会社が登場した。もともと映画や娯楽好きのアメリカ人のこと、広い国土で映画館まで遠ければ、自宅で手軽に見られるCATVはもって来いといったところである。
当初は再放送の映画が中心であったものが、CATV専門の番組を作り出したから面白い。
私は、首都ワシントンD.C.から西方にある比較的高所得者層のすむ町、バージニア州のフェアファックスを訪れた。この町のCATVは、全米で最大規模の120というチャンネル数を誇るCATV局である。
情報化社会もここまでくると、もはや驚異の世界である。まずはその番組表をご覧頂きたい。(表参照)
よくソファーに寝転んで、リモコソで番組選びをする人を見かけるが、120も番組があると全部のチャソネルを一通りザーッと見るのも骨が折れる。とにかくどの番組を見ようか決めるだけでも一苦労。
フェアファックスCATV番組表
最初に出てくるのが、番組案内。120チャンネルもあると、その番組案内だけで十分1チャンネルできてしまう。
勿論、ABC、NBC、CBSの3大ネットワークはカバーし、その上近郊各都市の地方放送局の番組が入ってくる。近隣都市へ働きにいっているビジネスマン対象である。
連邦・地方・都市レベルでの政府による放送、日本のNHKに相当するPBS、地元の小中学校の先生を連れてきて、学校の補習を行うテレビ塾。驚いたことに番組放送中、学生から電話で質問を受け付けてくれる。
地元の買物情報、どこのスーパーが売出しをしているか一発でわかる仕組み。就職情報、中古車情報、不動産情報も駅で売られる雑誌ではなくテレビで写真をみながら選べるから大変便利。
また地元の大学が近隣住民に対して行う公開講座。正式に単位をくれる大学もあるので励みになる。忙しいビジネスマンや家事に追われる主婦でも、居乍らにして生涯学習が行える。
地元の教会が行う日曜礼拝。寝たきりの信者でも参加できるわけだ。
まだまだ続く。黒人やヒスパニック向けの番組。子供向け、主婦向け、家族向けの番組。これなどは、一般の放送では数が少なくて対象にならないが、CATVなら十分に放送できる。
ディズニーや(ここにはないが)プレイボーイも既存の情報資源を生かして独自のチャンネルを持つ。
それから、なんといっても人気の高いのが、映画番組。一晩で数10本の映画が放映され、見ているほうは好きな映画を選べるから、映画好きにはもうご機嫌である。
同じ映画でも各社、競争が激しく差別化のための専門分化は進んでいる。面白い所では、懐かしのハリウッド黄金時代の映画を専門で流しているチャンネルもある。
スポーツ専門チャンネル、それから地元のごひいきチームだけの放送をするチャソネル。音楽も多岐にわたり、ロック、黒人音楽、カントリー音楽、クラシック・オペラとそれぞれ24時間ぶっ続けである。
ニュースも凄い。ご存じCNNだけでなく、経済株式ニュース。なにもファミコンでみなくてもいながらにして見られるのだ。ヘッドライン・ニュース。即時で報道されるから瞬時に情報が取れる。天気予報も2チャンネル。地元だけのものと全国のもの。地元空港のフライト情報。飛行機が日常茶飯事に遅れるアメリカでは、お客さんの出迎えの前にこれを見ておけば大変便利。
工事や渋滞などの交通情報。それを見ている人だけディスカウントで旅行にいける旅行番組。
世界中の番組を放送するインターナショナル・チャンネル。日本の番組も放送され、「おしん」や「水戸黄門」など人気があった。教育番組もこっている。自然の美しい光景をきれいな音楽とともに24時間ながしてくれる自然番組。コンピュータ・グラフィックで絵を書きながら昔話を聞かせてくれるテレビ絵本。
コンビニエンス派にとって便利なのは、1つの画面で4つの番組が見られるチャンネル。3大ネットワークと日本のNHKにあたるPBSの4つを同時に見ていて、面白いところが来たら、リモコンでそのチャンネルにすっと切り替えるといった具合だ。
最後にこれだけチャンネルがあると、やはり出てくるのが宗教。いまではテレピ伝道師なるものが登場し人気を博している。
ここまでくると、もはや唖燃とする以外にないだろう。本屋の専門雑誌のコーナーが全部テレビになってしまったという感さえある。
これほどまでになると、もはや情報の洪水の中で、いかに主体的に情報を選択するかが大きな問題になってこよう。またどう生活の役に立てるかも重要な要素である。
次回は、こうしたCATVが行政、政治、教育、福祉などの公共的な領域でどのように用いられているかお話しよう。
(松下政経塾 塾員)
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