トップ / 改革理論 /
変革期におけるトップマネジメントの本質
まえがき
昭和61年3月
早稲田大学理工学部工業経営学科
宇佐美泰一郎
"最も有効なトップ・マネジメントとはなにか?"また"最高の経営とはいかなるものか?"。これらは経営者にとって、あるいは我々経営学を究明する者にとって、永遠の課題であるといえよう。歴史上、企業経営が行われるようになって以来、様々な方法で、様々な場所で、様々な人間がこの問題に答えてきたわけである。ある時はP.F.ドラッカーが、またある時は松下幸之助が、その独自の体験や研究の成果を踏まえて、この永遠の課題に対する自らの答えを語ってきたのである。そして今日でもなお、こうした作業は止められることなく、いやそれどころか今まで以上に熱心に行われている。
そして、このことは時代の変化に合わせて人々の心が変わっていくのとおなじように、経営者によって、企業の規模・特質によって、またそれぞれの外部環境によって各々異なる個性を持った、いくつもの効果的な経営のスタイルが存在するということに他ならない。この意味で、基本的な原理・原則は存在するとしても、あらゆる経営環境に適合した絶対的な方程式の解答は存在しないということが言えよう。
我々にとって最も望まれるべきものは、"ある特定の経営環境、経営条件のもとで、最も優れた経営スタイルとはいったいなにか?"という戦略的意識に基づいた、現実の場における個々に最も適した経営学なのである。
本研究はこうした発想にたち、個々の経営環境に応じた効果的な対応を、現在実際に経営の現場で活躍する最高経営者の方々に対して行った面接調査によるデータをもとにして、数量的アプローチをおこなったものである。またこれに付随し、個々の経営者の方々にお聞きしたお話から、"経営理念"、"リーダーシップ"および今後の長期的・巨視的な視点である"21世紀の日本"など各々の経営者に共通する経営像を浮き彫りにしながら、激動する環境下においての"変革期のトップ・マネジメント"のあり方を探ろうというものである。
こうした視点により本書では、第一章においては『変革期におけるトップ・マネジメントに関する研究』と題し、それぞれの経営環境におうじたトップの対応を明らかにし、第2章では先に述べたように各経営者の方々に対するインタビューを総括し、短期的な視点に根差した『戦略的』側面と、中・長期的な視点に根差した『理念的』側面の両方の角度から、経営をとらえた。
ところで経営という対象を研究するにあたり、いくつかのアプローチの方法が考えられるが、本研究では以下のような方法をとっている。まず第1に、学際的アプローチであるということ。これは、ある対象にたいして、単にその領域の学問の知識や方法にとどまることなく、他の(隣接する)様々な学問領域の知識と方法も応用して研究を行なおうというものである。本研究におモデルを作
成した後、数学的な手法を用いてコンピューターによる統計的処理をおこなったものである。
第2に、プラグマティックなアプローチだという点である。研究の目的がどのようなものであれ、もしその研究によって得られた成果が現実の社会で実際に応用可能な実用的なものでなけれぱ、おそらくその研究の価値は半減してしまうであろう。本研究では単に"個々の環境で、どのような対応をおこなっているか"といった現状分析にとどまることなく、企業の業績をも考慮することによって、どのような対応がより有効なのかを明らかにした実用的な研究であるといえる。
そして第3に、現実に立脚した実証的な研究だという点である。科学という立場を考えるならば、それは客観的・合理的なものでなければならず、研究者の主観が入ったものであってはならない。そこで本研究は単に一・二の事例にとどまらず、できうるかぎり多くの事象にあたり、豊富な経験と鋭敏な勘とをもっておられる実際の経営者の方々に対する面接調査によって、真に現実の姿を踏まえた客観的そして実証的な研究であるということがいえよう。
最後に本研究をすすめるにあたり、研究の性質上、非常に多くの各界有力者の方々にご協力を頂いた。特に大変ご多忙ななかを、本研究のモデル作成のためのヒアリング調査にご協力下さった大和証券千野会長、また予備調査の実施に際しご尽力頂いた日本経済新聞社の皆様ならびにマネジメント・システムズ安藤社長他の皆様、また面接調査にご協力頂いた、博報堂近藤会長、ツガミ大山社長、HOYA鈴木社長、東京相互銀行沼社長、東京電力水野副社長はじめとする多くの経営者の方々、そしてその他にもいろいろお世話
を頂いた皆様方には、この場をお借りして、改めてお礼を申し上げる次第である。
また長期間にわたり、たいへん親身になってご指導いただいた尾関教授をはじめ、諸先生・諸先輩方々、ならびに本書編纂にあたりご協力頂いた岩崎正治氏にはまったく感謝の意に絶えない。ここに謹んで御礼申し上げる次第である。
お礼の言葉
この度、この『変革期におけるトップ・マネジメントに関する研究』を、こうして、まとめさせて頂くことが出来、望外の喜びでございます。これも一重に、本研究を進めるにあたり、ご理解ご協力を頂きました関係各位の、多大なる御尽力のお陰と、深く感謝致しております。
さて、急激な勢いで技術革新が進展し、消費者・ユーザーの二ーズも大きく多様化が進む現在、企業を取巻く内外の環境は益々複雑・混迷の度を極めております。こうした時代的背景のなかで、各企業の経営者であられる皆様方におかれましては、厳しい環境下での"生き残り"を図るため、本当の意味での有益なトップ・マネジメントの理論が必要であろうと存じます。しかし、これに対して実際の経営実務者の方々の声を反映した実証的な研究は質・量ともに未だ十分と言えるものではございません。
そこで本研究はこうした事情を考慮して、近年益々その影響が大きくなっている外部環境を配慮した数量的意思決定モデルを求めるため、実際に経営に携わっておられるトップ・マネジャーを対象とした面接調査を行ったものであります。こうした形での実証的研究は、従来その数は極めて少なく、また研究に伴う困難を考えた場合、本研究はまさしく独創性に富んだ労作だと存じます。何分力不足の故、御不満な点も多々ございましょうが、何卒御容赦のほどお願い申し上げる次第であります。
また本研究の結果が、多少とも皆様方のお役に立ちましたならぱ、指導の任にあたりました私といたしましても、このうえない幸甚でございます。
昭和61年3月
早稲田大学教授
尾関 守
|