トップ / 改革理論 / システムズ・アプローチによる改革の実践 / 第7章コーディネート・スキルとメディアの活用
プロジェクトの進行形態には上記のように主に3つの形態が考えられる。一般にはAの個別ヒアリング型とBのグループミーティング型を組み合わせて行う事が多いが、最近の情報技術の発達やインターネットの普及などから、Cも増えてきている。これらは、テーマの性格や与えられた時間との兼ね合いなどによって効果的に組み合わされる必要がある。しかし、どの方法であってもコーディネートの進め方やプロセスは共通である。
図 システムズ・アプローチとコーディネイト・プロセス
さて、先に述べた3つの形態に共通なプロジェクトのコーディネイト・プロセスは上記のようになる。このステップに沿って、言葉、イメージ、価値観の3つのすり合せを行う。
図 コーディネーターの頭の使い方
この際、コーディネーターは下図のような頭の使い方は、図のようなイメージである。今現在のステージでは、「必死に聞きそれをうまく表現する」ことに集中する。と同時にプロセス全体をにらみながら、つぎの展開を常に考えているわけである。
さて具体的に、各ステップに応じてどのようにコーディネートを行い、どのような質問を行うのか?また、そのときの頭の中での展開の仕方はどのようなものか順を追って見ていくことにする。
図 コーディネート・シート (その1)
(※質問例は事業場全体の業務改革を前提にした一例である。)
図 全体のイメージ図作成上の展開方法
Q1からQ12にかけては、おもに相手の仕事や組織などシステムの内容を聞きだし、それを立体的に展開していく。通常、システム全体を聞くためには、いくつかのステージ毎にヒアリングを行い、それぞれのステージで聞いたことを最終的につなぎあわせて全体が構築できる。そのためには、問題とする全体像をどこまで広げるのかを読んでいなければならない。それが最終的な着地点となる。たとえば具体的には、どの部門や組織にまで問題がおよんでいるのかおおよその目安を持ち、ヒアリング対象先を選定したり、プロジェクトに組み入れるメンバーを選定したりするのである。
そのため、本格的な調査にはいる前に、まず問題の全体像を知っている人など(最低でも10人程度以上)に対して予備調査を行い、色々と情報を集めて、問題の範囲と悪さ加減の程度をあらかじめ知っておく必要がある。本格的なテーマの設定や取組方の設定はその後行うのである。これが絵を描くときのデッサンに相当する。
次に実際の本格的な調査に入ったら、頭の中に3つの地図を持っていなければならない。「現在のステージ」、「次のステージ」、「全体の地図」である。これは、船で航海を行うときと同じで、常に全体の地図を頭にいれ、今どこに自分がいるのかそして最終的にどこを目指しているのか?そのために次のステージはどこなのか?ということを想定していることである。 ただし注意を要するのは、広げる範囲を想定しておくだけで、「ヒアリングの結果どんな内容がでてくるか」という内容までは想定してはいけない。あくまでも内容については先入観を持たず素直に聞くのである。ヒアリングの内容によっては、次のステージの範囲を変えたり、全体の地図の範囲も変えたりできる臨機応変さも必要となってくるのである。
図 全体画面と詳細画面の展開方法
システムは全体と部分とから構成される。部分はまたさらにより細かい部分から構成される。このように対象とするシステムをより細かく理解しようとすると、こうした全体と部分を行ったり来たりしなければならない。本書では、それを「ズームイン」、「ズームアウト」と呼ぶ。
特に各ステージ毎のヒアリングの際に、全体を追いながら聞いていると、必ず「ここはおかしいな」とか「問題がありそうなのでより詳しく聞いてみたい」というような箇所に出くわす。この場合、(電子黒板であれば別の画面を開き)詳細画面として、より詳しく聞いていく。その際、コーディネート・シートのQ14からQ18のナゼナゼに移行しながら、それを詳細にわたって聞く。そして一通り聞き終わったら、もう一度全体画面にズームアウトして戻り、先ほどの全体画面の続きを聞いていくわけである。全体を進めながら、時々詳細画面に寄り道して進むのである。
ここでの注意事項は、ヒアリング調査に与えられた制限時間との兼ね合いの問題である。通常1回のヒアリング調査は1セット1時間から1時間半、場合によっては(初対面の時など)2時間ぐらいで行われる。とりわけ、なかなかアポイントが取れない多忙な人相手の時や、再度聞き直すことが容易でない組織外の人のような場合、常に与えられた時間のなかでやりくりしなければならない。特に詳細画面に入り出すと、どんどんと細かく聞いてしまい、なかなかズームアウトして全体画面に戻ってこられない。この場合、あらかじめヒアリングの調査項目の事前整理を行っておいて、最低限聞くべきことをリストアップしておく。そして聞き漏れなどについては、調査結果を資料としてまとめ、再度報告の際にカバーするなどが効果的である。
図 詳細画面と源流画面の展開方法
さてSTEP 2の全体像のイメージ把握、STEP 3のナゼナゼの繰り返しまでを一連のヒアリングを通じて終わると、次に本質的な課題(根っこの課題)を明らかにするための新たな段階にはいる。これを個々の問題より深いところにあるという意味で源流画面と呼ばれる所で整理・検討するものとする。
このように「全体画面」、「詳細画面」、「源流画面」という3段階の立体構成で問題を空間的に構築する。この源流画面では、ヒアリングによって得られた情報をもとに、「こういうところに問題がありそうだ」という一つの「問題の仮設」ができ上がる。これが真実かどうかを検証する意味で、事実調査を色々な側面から行う(コーディネートシートのQ21からQ26)。
「どうも本音が出てないな。」とか「この辺が特に気になる。」というような、これまでのヒアリングを通じた印象や感じなども重要な情報となる。これらの情報を元にQ27からQ32までのステップを経て。本質課題を明らかにする。ここでは特にここの問題(「G1」「G2」「G3」;注意 GはGHOSTの頭文字)に共通するものはなにか?何を背景にこうした問題が出てきているのか?を探究することになる。そうすると例えば「急激な拡大主義の行き詰まり」だとか「売り上げ市場主義の結末」というような、問題全体を通じたコンセプトが明らかになってくる。これがQ33のコンセプト出しである。「要するにこうした数々の問題の状況を一言でいうとどういう事になるのか?」ということである。
このコンセプトはきわめて重要で、次のコーディネート・シート(その2)で出てくる「価値観のすり合せ」の基礎になる。問題とは個々人が持つ価値観の裏返しである。根本問題は何かと詰めていく課程で逆にこの価値観をすり合せていることにもつながるのである。
通常、源流画面の展開は今までのヒアリングを行ってきたメンバーを中心に少数の人間で集中して行うことが効果的である。お互いの価値観の違いを戦わせる中でかなり激しいやり取りが必要である。また一人で考える場合には、かなりの集中した思考が必要である。その後創造的問題解決のためのヒラメキがあるものである。そして、ここまでの調査結果は、中間課題報告会を開き広く関係者との間で共有することでその後の協力体制が得られる。
正しく現状を認識できれば自ずと衆知は集まるものなのである。
図 コーディネート・シート (その2)
図 あるべき姿の設計から実施計画までの展開方法
コーディネート・シート(その2)では、STEP8-1の価値観のすり合せからSTEP11〜20の実施案の企画書作成・実施フォローまでの流れに触れている。中間の課題報告会などによって現状の認識が正しく理解され共有化されると、興味深いことに、「しからばどうすべきか」という解決案をひねり出す方向に人間の頭は自然と向かっている。
しかし、現実的な思考の人と理想追及型の人とでは目標の置き方が違って、自ずとアプローチが異なってくるものである。そこで「あくまで目指すべき理想」と「今即実行できる具体的目標」の切り分け作業が重要である。そのため、まずQ39からQ42までで目指すべき「あるべき姿」をイメージする。そして、そこへ至るホップ・ステップ・ジャンプのステップアップのシナリオを用意する。その上で現実具体的な目標が浮かび上がるのである。
われわれの抱える問題は、常に「人・金・技術・情報」などの経営資源の制約が付きまとう。経営的にみて体力がないのに、いかにそれが理想だからといって、身度ほどをわきまえない目標は実行の途中で空中分解を起こしてしまう。また一方で現実の制約にとらわれるあまり理想を無視した妥協策では、長期的にみると同じ様な改革を何度も繰り返す羽目になる。そのため、「理想を踏まえた上での現実的な目標」こそが必要になる。
次にSTEP9の解決案の洗いだし以降の段階にはいるが、ここでは「G1、G2、G3などの個別の問題をどう解決するか」という「もぐら叩き的発想」しないことである。個別の問題ではなく、問題すべてをにらんだ上で「どういう総合ストーリーを描くのか」が重要である。よく個々の問題にすべて解決策を考えていきなり実行しようとして、勢力が分散してしまい失敗する例は多い。問題の解決は常に「一つ一つ順番に」そして「目の前の一つに常に経営資源なりエネルギーを集中させる」ことが確実に問題解決を成功させる常套である。
そのためには、どの問題にウエイトを置くのかという経営的な全体的着眼点を常に忘れず、場合によっては「ある問題は捨てる、あるいは延期する」融通無碍さを持ち合わせることである。そして、実施する途上で「無理だと判断されたり、周囲の状況が変われば」直ぐさまターゲットを絞ったり、目標や計画を変更する「勇気」が必要である。要は何が何でも形としての成果を出していく攻めの姿勢を崩さないことである。
そして重要なのは、Q67の成果尺度のものさしづくりの計画への組み込みである。改革を実施に移すと「ともかく目先の施策を実行すること」に注意がいき、何ためにやっているかという大目的が忘れ去られることは多い。「町をきれいにするために人を集める」ことが目的なはずだが、そのための「ビラづくり」が目的になってしまう。特に官僚的な行政機構や間接部門での改革の場合には、改革の実施計画の段階で、どのように改革の成果をはかるか、というものさしを明らかにする必要がある。なにも定量的に明らかにならなくてもよい。アンケート調査や定期的に評判を聞いてまわるという方法でも十分に評価はできる。
改革を完璧なものにするためには、Q68の継続的推進体制づくりは避けて通れない。うまくいったプロジェクトでも「改革が一通りのメドがつくとチームを解散して、後の面倒は誰も見ない」ケースはよく見受けられる。メンテナンスやフォローをどういう体制で行うのか(何も専任にする必要はない)を明らかにし、組織的にオーソライズしておくことは重要である。新しいものをつくった人達は華々しく評価されるが、維持継続の任に当たる人達はなかなか評価されないのが世の常。しかし、本当の問題解決は先の先まで見通して手をうっておくことが必要不可欠なのである。
一般にヒアリングとは、「インタビュー調査」、「聞き取り調査」などのことをさしているが、本書ではこうした単なる情報を入手するための調査よりも広い意味で「ヒアリング」を定義している。相手の意見を聞きだし、確認し、そしてそれを表現していく。「聞く」、「理解する」、「書く(表現)」、そして「確認する」という問題解決の一連のコミュニケーションことをさす。
形態としては、個人対個人でのヒアリングと関係者を集めた集団で行うヒアリングとがある。
ヒアリングとは人にあって話を聞くという点では、もっとも容易に実施出来る方法であろう。しかし、こと問題解決を前提としたしたヒアリングの場合、その効果は非常に大きい。以下にヒアリングの目的をまとめてみる。
A. 情報の収集
問題解決に直接必要な情報を入手する。
B. シンボリックアナライジング(内包の解析)
実際に相手にあって話を聞くことで微妙なニュアンスや問題の背景、あるいは周辺情報、その場の雰囲気が理解出来、言葉の内包まで細かく迫ることが出来る。
C. ヒアリングによるラポート(人間関係)構築
カウンセリングの世界では、クライアント(患者)との良好な人間関係をラポートと呼ぶ。問題解決のヒアリングにおいてもこうした関係 づくりが重要であり、その後の理解や協力を得やすくなる。
ヒアリングを行うには以下のような手順で行う。
A.ヒアリング目的の明確化―何のためのヒアリングか意識する
B.メンバーの選定―目的に応じたメンバーの選定を!
C.質問項目の整理―聞き漏らしのないようあらかじめ準備する
D.ヒアリングの実施―素直な心で聞くことに徹する
E.調査結果のまとめー忘れないうちにまとめ、相手にフィードバック
F.裏をとる(事実調査)―聞いたことは本当とは限らない
A. 目的ー開始に当たってプロジェクトの趣旨説明と理解を求める。
B. 守秘義務の宣言ー情報ソースや聞いた内容は他へは言わない
C. リラックスー明るく自由な雰囲気を作り出す
D. 要約ー相手と同化し「要するに何をいわんとするか?」を掴む
E. キーワードーキーワード毎に細かくパートに切って聞き出す
F. 問直しー異なる内包の言葉は必ず再定義を行う
G. うなづきーアイコンタクトとうなづきは相手を話しやすくさせる
H. 確認ー節目毎に相手の確認をとりながら進める
J. 終了ー最後にお礼と今後の活動への協力依頼を忘れずに
@ 討議のテーマーなるべく具体的で明確なテーマに絞る。
A 討議メンバーの構成ーコーディーネーター 1名(2名)
・ リーダー 1名(討議結果に責任を持つ人)
・ 討議メンバー 5〜8名(これ以上は話し合いにならない)
B メンバーの人選ーテーマとする課題に関連した人々が中心。
・ ただし、処方箋を作る段階では、全く異なる分野の人や外部の人の方がユニークなアイデアが出る。
C 討議の進め方
・ 討議はコーディネーターを中心に進める。また、リーダーは出来上がった改革案がより建設的であり、かつ現実に実行可能なものになるようメンバーをリードする。
D 討議の環境
・ 外部から電話などで呼び出されることなく、自由にいろいろなアイデアが出やすい環境。
E 討議時間
・ ダラダラと続けることなく、あらかじめ目標時間を定め行う。テーマによって長短はあるものの、1セッション2時間〜3時間くらいが適当と思われる。
F 討議に必要な器具・備品
*電子黒板ー討議は原則として、参加者全員の衆知を集めること望 ましいため、書記のいらない電子黒板を用いる
*テーマに関連する資料やデータ
討議の途中、必ず現場の事実を確認する必要がある。そのため、あらかじめ必要と思われる客観的なデータや資料、また帳簿などの具体的なイメージがつかめるものを準備しておく。
*模造紙、KJ法用の糊のついたカード(付箋)
討議の途中で、いろいろなアイデアを整理したり、体系的に並べ替えたりする場合、模造紙やカードがあると効果的である。
@ 会議のプレーヤー(実際に意見を言う参加者)でなく、討議の流れを追う中立的な立場にある。
A 討議される「問題のプロ」よりも、むしろ、課題解決能力にたけた「問題解決のプロ」である。
B 先入観に囚われることなく、素直な心で聞くことに徹する。(自分を殺し全体を生かす)
C 自然な雰囲気でメンバーの知恵を引き出し、違いを明確にしながら組み合わせる。(衆知を集める)
D システムズ・アプローチの手順を熟知し、議論を予想しリードする。
E 複雑な話をシステム思考で理解し、ビジュアルに表現する。
F 他社の事例など豊富な知識を持ち、メンバーの既成概念を払拭するための発想の転換を促す。
G 討議のルールを逸脱しないよう、リーダーシップを発揮する。
@ メンバーは対等
・ 討議をしている間は、お互いは上下の関係を越えて対等に発言します。特に、実際の組織の上司と部下の関係にある人間が入る場合、上の立場にある人間は、絶対に『なんだ、そんなことも出来ていないのか?』とか、『駄目じゃないか』と押さえつけた発言は慎むこと。
A 他人の発言は批判しないこと
・ 『だれだれが悪い』とか『お前は間違っている』とか、他人の発言を批判したり、揚げ足を取るような発言はしない。ただし、反対意見については勇気を持って言う。
B 具体的、客観的事実に基づいた発言
・ 発言はダラダラと行わず、ポイントをまとめて具体的、客観的事実に基づいて行う。『**になっているはずだ。』とか、『だれだれが**言っていた』という曖昧な表現はできるだけ避ける。
C 本音で課題を発言
・ 『こんなこと話したら怒られるんじゃないか』とか、『恥ずかしい』と思わず、素直な気持ちで日ごろの課題や問題意識を表現する。日ごろ話せない問題の中に、改革の課題の本質が隠れているものである。
D 課題の解決策に集中する
・ 『**だからできない』と判断してしまうのではなく、どうしたら出来るのか、解決のためにはどうしたらいいのかに討議を集中する。
電子黒板とは、「ホワイトボードに書いたそのままが紙に印刷されて出てくる便利な道具」であり、文字どおり電子の黒板である。昨今は比較的、普及してきている。電子黒板の最大の利点は書記が必要ない点である。しかし、さらに一歩進んで電子黒板の活用を考えたいものである。
これまでに触れてきたように、コーディネート・スキルの重要な点はイメージのすり合せにあった。電子黒板は頭に浮かんだイメージをそのままの形で描写できる点に最大の特徴がある。言葉だけの会議の場合、どうしても表現が曖昧だったり、理解が食い違う危険性があるが電子黒板を使えば、イメージそのままを共有化できる。さらに電子黒板は通常2画面以上を同時に使うことが出来る。この機能を使い、先の全体画面の展開をやっておいて、別の画面で詳細画面を展開し、またズームアウトで戻って来ることも出来る。
情報化、グローバル化が進んだ今日、インターネットを使った電子会議は驚異的な威力を発揮する。好きな場所から好きな時間に会議に参加でき、また議事録は電子データのため直ぐに取り出してプリントアウトできる。
メンバーの参加意欲が高くパソコンなどの技術力に問題がない場合、積極的に活用すればきわめて効果的なコミュニケーションが実現できる。
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