トップ / 改革理論 / システムズ・アプローチによる改革の実践 / 第1章問題とは

第1章 問題とは?

1-1 問題とは?

(1)我々の周りの問題の事例

 一口に「問題」といっても、われわれの周りにはずいぶん様々な問題が存在する。日常の担当者の「業務レベル」の問題、また課長レベルでの「管理レベル」の問題、そしてトップ、部長レベルでの「経営レベル」での問題などである。そして問題の解決が容易なものもあれば、事業場にとって積年の問題で容易に解決出来ない問題もある。

 今仮に事例として、下のような3つの問題を考えて観ることにしよう。

問題事例1 違算解決の問題

 ある製造事業場での売り上げ違算の事例。未着違算、未帳引違算、未請求違算、単価違算などいろいろな要因から違算が発生するが、日々担当者は一件毎の解決におわれ、毎月毎月もぐら叩きを繰り返している。

問題事例2 決算日数短縮の問題

 「毎月、決算が出るのが遅く死亡解体書を検討しているようだ。」とトップからいわれていたのをきっかけに経理責任者を中心に決算所要日数を従来までの5日から3日にしようと目標をたて経理部全体で取り組む。この際、経理部全体の業務の流れを見直し根本的な業務改革に取り組む。

  問題事例3 システム事業におけるあるべき会計ルールを作る

  10年程前から従来の家電業界からシステム事業に多角化を行ってきたが業界の風土や慣習、法律などが異なり、今までの業務ルールから脱仕切れていなかった。その矢先、ある得意先との会議の場で「おたくの会計ルールは少しおかしいのでは?」という指摘を受け、全社を挙げて「システム事業にマッチした会計ルール」を構築することになった。

 さて、3つの事例ともどこの事業場でもありそうな問題である。もしあなたがそれぞれの問題解決を任されたとしたら、どのように取り組むであろうか?

(2)目標の設定の仕方で問題は変わる

  ここでは、それぞれ「業務レベル」、「管理レベル」、「経営レベル」の問題について事例をとりあげた。これらの問題解決を考える上で、最も陥りやすく基本的な誤りがある。それは、目標を何に定めるかによって、問題そのものが変わってしまうことである。

  問題事例1の違算解決業務の場合、担当者レベルの業務であるが、本来違算というのは出ないにこしたことはない。セールスの売り上げ姿勢の問題であったり、得意先との検品基準が不明確であったり、帳端日数の決め方が現状の物流事情にそぐわなかったりと違算が出てくる根本要因はいろいろと考えられる。

  ここでのポイントは「違算解決業務を楽にすること」を目標にするのか、あるいは「二度と違算を出ないようにすること」を目標にするかで取り組むべきテーマが大きく異なってくるということである。「違算解決業務を楽にすること」が目標であれば、機会照合などの方法が考えられるが、もし「二度と違算を出ないようにすること」を目標とするならば、ナゼナゼと違算そのものの根本要因にまで遡り解決する必要が出てくる。

  次に問題事例2の決算日数短縮の場合を見てみることにしよう。この場合の目標はなんだろうか? よく誤解があるのは「決算日数を3日にしよう」というスローガンが上から出されると、ただ「5日を3日にするのが目標」と表面的に捕えてしまうケースが散見されるということである。この場合、最大の目標は「決算日数を短縮することによって、経営幹部への情報提供を早くし、経営改善への手を素早く打てるようにすること」が最大の目標である。

  つまり、経営幹部への情報提供の早期化、経営改善着手の早期化が最終目標であれば、単に決算を早くすればいいだけではなく、検討資料の作成の早期化やその質的向上など取り組むべきテーマはより広くより高い次元の問題となる。

  問題事例3の場合はどうだろうか? この事例の場合、ターゲットとすべき目標、つまり「システム事業におけるあるべき会計システム」という目標自体がないのであり、これを作り出すところから始めなければならない。

ところが、特にこうした今までにない目標を作りだし問題を解決するというのは、わたしたちにとって比較的なじみがない。そのために、よくやる方法は、関係者からヒアリング調査し、従来の問題点を整理した上で、その問題をどうつぶすかということに終始してしまいがちである。結果的に継ぎはぎだらけの対処であったり、人によって目標とするイメージが異なるために組織的な合意がとれないような現象が見受けられるのである。

  本来であれば、先行する他社の事例をヒントにして目標とすべきイメージの叩き台を作ったり、お客様の視点にたって、何をしなければならないのかという目的や機能を絞り込んで、目標とすべきイメージを共有化することから、為すべき課題、つまり「問題」がはっきりするはずである。

(3)問題とは目標と現状とのギャップである

  このように「問題」というのは、われわれが意識的に目指すべき「目標」と「現状」のギャップのことをいうことが御分かりいただけよう。

  自分一人で解決できるような「問題」(例えば「仕事の段取りを変える」とか「パソコンをマスターして効率化する」)とかいうようなものであれば、現状の認識も目標の設定も自分一人で決めればよいのでいいのだが、これが複数の人間、とりわけ異なる部門、異なる組織にまたがるような問題となると簡単には行かない。

  つまり、問題が何かをはっきりさせる上で、関係する人々の間で、「現状はどうか?」、「目標は何か?」を共通に認識する必要がある。さらに、大変なのがある人にとっては、その目標が意味のあるものでも別の人には、「自分には関係ない」とか 「利益につながらない」というのでは、そのギャップを埋めよう、つまりその問題を解決しようという意識には到底至らない。

  あるいはある時点ではその人にとって魅力的な目標でも、時間がたち環境が変化するともっと解決の必要に迫られる新たな目標が出て来て、その問題が後回しにされる場合もある。

(4)「どうしてもその目標を達成したいという熱意の持続」こそ基本

  問題解決というと原因をより深く明らかにする前にすぐに解決策を考え、関係する周囲の人々との意識のすり合せを省いて自分の立場から解決策を実行しようとしがちになる。ところがその結果、実行の途中で大きな反発を招いたり、周りの無関心に腹をたてたりして、結果としてその調整に大きなエネルギーをとれらてしまう経験を多くの人がお持ちだろう。

  問題解決にとって重要なのは、すべての人にとって魅力ある利益のある目標として受け入れられ、なんとしても最後までやりとげるのだという熱意が組織として、集団として持続できるかどうかに大きなポイントがあるのである。

(5)問題解決に着手する前にすべきこと

  そのためには、問題を発見したらすぐさま解決に着手しようとする前に

「本当にその問題を解決する必要があるのか?」「何のためにその問題を解決するのか?」ということをはっきりと自問自答する必要がある。案外と問題の多くは、自分にとって感情的に気に入らなかったり今までのやり方と違うというだけで、解決する必要のないものも多いものである。

  そこで問題解決に着手する前に以下の条件を満たすかどうかを再度チェックしていただきたい。

 【1】自分にとって本当に必要なもので解決への熱意と執念があるか?

 【2】その問題は所属する組織(会社全体、事業場全体)に貢献する重要なものかどうか?

 【3】組織を取り巻く社会全体の発展に真に貢献するものかどうか?

1-2 「問題」という言葉の使い分け

(1)頭がいたい人の例え

    さて、もう一つのポイントは日頃われわれが日常生活で使っている「問題」という言葉には実に様々な意味があって、それを区別して使っていないことによる点である。

  たとえば、今頭痛がして頭に熱がある人を例えにしてみよう。おそらくこの人「熱がある」ことを問題と思うだろう。確かに熱があるというのは、不愉快で気分も良くないので「問題」には違いない。

  ところが医者にいって診察を受けると、疲れがたまっていて「風邪ぎみ」だということがわかったとしよう。ということは本当の問題は風邪だということになる。

  さて、それでは何をしなければ為らないか?会社を休んでゆっくり睡眠をとるとか、風邪薬を飲むとかという解決策が考えられる。つまり、「元気になる」という目標と「頭がいたい」という現状とのギャップを埋める方法、つまり「問題」の解決策は「風邪薬を飲むこと」になる。

  しかし、この人にはもう一つ「問題」があった。というのは、この人胃が弱く風邪薬を飲むと胃がいたくなるという。さて、この問題を解決するために、「一緒に多めの水を飲む」などの方策がいるわけである。

  さてこの人の場合もう一度、この場合の「目標」はなんであろうか?

もちろん「頭痛がなくなり、元気になること」である。この場合は、言葉にしなくても常識の世界でほとんどの人が自明である。

【1】現象面の問題(支障、トラブル)= 「熱がある」

【2】根本的な問題(原因、ルーツ) = 「風邪をひいている」

【3】為すべき問題(課題、テーマ) = 「風邪薬を飲む」

【4】推進上の問題(拘束、ネック) = 「一緒に水を飲む」

【5】達成すべき問題(目標、ゴール)= 「元気になること」 

  実は日頃私たちが使っている「問題」という言葉には、上の【1】から【5】の意味を知らず知らずのうちに混同して使ってしまってはいないだろうか。

(2)違算解決の場合

  実は問題解決力をつけるためには、上記の言葉を意識して区別する必要がある。というのは、問題を解決しようとすると、5つの「問題」すべてを明らかにしていかなければならないからである。

  例えば先ほどの違算解決の事例を見てみよう。「違算が多い」というのは【1】現象面の問題である。結果として、違算解決が大変となるわけである。次に、その原因はというのを分析すれば、未着違算や未請求違算、単価違算などである。但しこれは要因の区分であって、さらに【2】根本的な問題を突き詰めると「こちらは月末に出荷しているのに先方は月末が棚卸日のため入荷処理していない」ということがナゼナゼと追跡調査をしていくとわかったとする。

  それでは、どうすればよいか?【3】為すべき問題つまり解決策は、例えば「(あい手先の棚卸日での入荷処理を調べたうえで)月末1日前に売り上げをしめる」などが考えられよう。

  では、【4】推進上の問題はなんになるだろうか?例えば「取引先すべてに連絡し徹底するのが大変」などが考えられ、その対策としては「連絡するときは真っ赤な紙に大きな文字で記入する」などが考えられる。

  ところが問題を細部にまでわたって考えていると、結局何が本当の目的であったかを忘れてしまうことが多い。

  たとえば、先ほどの例えでいくと「風邪薬を飲む」ために、自分の家にないので買いに出かけた。家が越してきたばかりで一生懸命「風邪薬を買う」ために「薬屋を探した」。しかしなかなか見つからないので、「人に聞いてみる」ことにした。

  人見知りをするので「人のよさそうな人を探して聞いてみる」ことにした。人のよさそうな人を探すのに一生懸命で、ようやく探し当てた人に聞いてみると、「あなたの目の前にありますよ。」といわれ、薬屋に入ったとたんに「あれ何を買いにきたんだっけ」と忘れてしまい、気がついたら頭痛が治っていたなどという笑い話のようなのは誰にもあることだろう。

 これは右の図のように本来の目標を達成するために、目標と手段が連鎖していることを表わしている。

【5】の達成すべき

問題というのはともすれば、下のレベルの目的追及に目を奪われともすると「要するに何が目標だったか?」を忘れてしまいがちになる場合が多いので常に頭の中で強く意識している必要がある。 

(3)「問題」という言葉を意識して区別する

  このように違算解決の例で、「問題」という言葉の区別が問題解決を行う上でいかに重要であるか御分かりいただけたと思う。

  ただ闇雲に「問題だ、問題だ!」という前に、今自分が使っている「問題」というのは一体1から5のどの問題なのか?そしてまだ答えが出ていないのは何かということを十分に認識する必要がある。

  今まで述べたように「問題解決」と一言でいっても、きわめて人間的な高次元の思考であり、意外にそのノウハウは属人的に習得される場合が多いといえるだろう。本書では第2章以下問題解決という「思考プロセス」を科学的に思考していきたいと思う。

前へ