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2-10 在宅勤務

 それでは、次にネットワークの運営に関してはどうだろうか?
 勿諭これはネットワークそのものが仕事であるので、余りにも多いのだが。
 私は研修期間中、リサさんのお宅に下宿させて頂いたのだが、パソコン通信をビジネスに活用する際、彼女の一日の日課は注目に値する。
 リサさんの仕事は最初にも述べたように、ネットワークをいかに運営するか、どのような企画の会議を作ったらいい、どのようにしたら会員が進んで発言をしてくれるようになるか、というモデレーター(普通の会議でいけぱ議長のような役割)をしているのである。
 こうした仕事は、主に例えばある会員が会議の中で発言したとすると、「素晴らしい発言ね」と元気づげたり、あるいは新しい会議室の企画について他の会員て電子メールでやりとりしたり、会議の流れを見ていて適切に議論の交通整理を行ったりという仕事である。
 毎朝身仕度が終わると、彼女の車に乗せてもらってオフィスに通っていた私であったが、ある朝いつものようにオフィスに行く準備をしていると、時間に正確な彼女らしからず、20分ほどいつもより遅いのである。
 そして彼女の書斎へ行ってみるとリサさんは、パソコンの前に座ってキーボードを真剣に打っている。そして後から来た私に気づいたのかこう言った。
「今日はオフィスには行かないわよ」と。
「どう一したんですか?」そう私が質問すると、すかさず
「仕事がたまっているから、今日は家で仕事をするわ」
 私は「仕事は会社でするもの」というような先入観を持っていたので、彼女のこの返事を聞いて一瞬きょとんとしていた。しかし、しぱらく考えたのち、「これが在宅勤務か」とはっと気が付いたのである。
 数年前から、21世紀のピジネス社会は在宅勤務の時代がやってくる。というようにマスコミでも騒がれたが、実際に自分の目でこうしてみるものとは想いもよらなかった。このリサさんは、週のうち多いときで2回から3回、少ないときでも最低1回は家で仕事をしていた。自宅の方が通勤時間も節約できるし、集中できるということらしい。自宅に居ても仲間と十分に意志疎通が図れるネットワークがあればオフィスにいるのと変わりが無くなるのである。
 メタネットの中には、「MDG」という名前のクローズドな会議があり、これはメタネットの社員専用で使っているものがあるのだが、後で聞いたところによると、リサさんがその日出勤しないことは、前の日の夜すでにこの会議の中に「明目は家で仕事するわ」と入れられていたので、他のメンバー皆そのことを事前に承知していたのである。
 私が最初に研修にやって来た日、「何故皆自由な時間に会社にくるのか?」という疑問がこの時、初めて解決したのである。
 仕事を行う上で、メソバー同志の意志疎通、コミュニケーションは欠かせないものであるが、この会社では当然全員がこの「MDG」という社内専用の会議を使って、お互いの仕事の進行状況や協力の依頼、あるいは経営戦略、経営計画などを共同で互いの討論を通じながら行っている。
 こうした会社の方針を全員で討論しながら、決めていくことで、お互いの結束力は益々高まり、参加意識と責任感が芽生え、しかもお互い自分の仕事は自己責任のもとで自由にこなしていけるということになる。
 この社内電子会議のメリットはこれだけではない。私もこの会議に参加させてもらって初めて分かったのだが、この企業と提携関係にある他の企業や協力者もこの会議に参加しているのである。
 オフィスのメンバーは5人だといったが、なんとこの会議には約30人前後の人間が参加している。勿論これらの参加者は企業の秘密情報に関しても安心して話せるメンバーということで、ほとんど社員と同様の人たちである。
 たった2時間の会議のために、わざわざ東京、大阪間を在復6時間以上もかけて日帰り往復するというビジネスマンの方がいたが、こういう企業ではまさにうってつけであろう。
 勿論会って話をするということも大変重要なので、何回かは実際にあって会議を持つにしろ、おそらく今まで5回やっていた会議なら、この社内電子会議を使えば、2回なり3回なりに減らせて、往復の時間の節約になろう。
 すでにアメリカでは、支店が多い企業、支店が遠距離に離れている企業たどでトップによる経営会議、部門間のプロジェクト会議などに使われる事例も多い。
 ここで一つ興味深いお話をご紹介してみたいと思う。それは、電子会議を使った場合、よくアメリカでは「サンドイッチ方式」というのを行えという鉄則があるということである。
 この「サンドイッチ方式」とは、どういうことであろうか?簡単に言ってしまうと、要するに会議の最初と最後だけは必ず顔と顔とを突き合わせた「フェイス・トゥー・フェイス」の会議を行えということである。これは、まず会って話す場合、人間の持つ五感のすべてを使って、話し合うことが出来る。このためお互いが共通して議題やプラソについてのイメージを持つことが出来るということ。そして、互いにどういう顔をして、どのような人柄なのか。その課題に関してどの程度の熱意を持っているか、などの情報が共有出来ることになる。
 しかし一旦、お互いがイメージやコソセプトを実際の会議で共有した後は、どうしても顔を合わせる必要はそれ程強くは無くなるし、電子会議のようにむしろ顔を合わせず、じっくり自分の考えを整理したのち、発言するほうが、かえって会議自体の生産性が上がるというのである。しかし最後、その会議を締め括るときは、お互いの議論が噛みあっていたのか、最終的にチェックしたほうが、お互いめ参加意識の高揚が図れ、また責任も伴うということである。
 とにかく重要なことは、今まである問題に関して、3人以上の人間が一緒に話すということは、実際に会う以外に不可能であった。しかし電子会議は、お互いの時間を拘束する事無く、また場所が離れていても、こうした話し合いが持てるようになったということである。メタシステムズ社のように通常はオフィスにいない人間も、会社の経営に関して知恵を集められるということである。ただし問題は、電子会議、またパソコン通信の限界ということもわきまえた上で、最もよい使い方をするということであろう。パソコン通信が万能だと思うと、期待はずれに終わってしまうことも、しばしばだからである。

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