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ネットワークで壁のない学校の実現
政経ネット(松下政経塾)
●『スーパー・ビジネスマンの情報戦略 新ワープロ通信入門』
小石雄一/森島透 共著 徳間書店 (1988年12月31日発行)
松下政経塾とは、1979年、松下幸之助氏が私財70億円を投入して神奈川県茅ケ崎市に設立した政治家、実業家など21世紀の各界の指導者の養成を目的とする学校である。活動内容は各方面にわたっており、知っている人も多いことだろう。
まず目的意識あり
松下政経塾が、なぜ電子ネットワークを必要としたか。その背景について 松下政経塾の宇佐美さんは、「繁栄を通じて平和と幸福を、という社会改革の実践を塾の目的とする関係上、卒業生を含めて活動母体としての連帯のためにネットワークは塾として不可欠だった。」しかしながら、「塾出身者の活動拠点は、日本全国のみならず、アメリカをはじめ世界10数カ国におよんでおり、ネットワーク形成のためのコミュニケーション手段は、困難極まりをいものだった。」と語る。
要するに、同塾のように世界各地で活躍している人達の相互間コミュニケーションのためには 電話やファクシミリなどの従来型のメディアでは、目的の達成は難しかったのだ。
このような目的意識の下に、政経ネットは生まれたのであり、趣味的な要素の強いパソコンネットとは違う。人的な関係が先で、集団の目的も強固で共有されているところが最大の特徴なのである。
政経ネット国際通信実験
政経ネットでは 1987年7月から約半年間にわたって まず事前の国際通信の実験をおこなった。ワシントン、メタネットで研修を受けながら宇佐美氏が、日本側と1日1回電子メールを送る交信実験であった。この時は、主にコンピュサーブ(COmpuServe)という全米最大の会員数を誇るネットワークを利用したそうだ。
政経塾においても、国際ネットの試行実験による効果は予想以上に大きかったと評価している。
国際近話や手紙と比較してみよう
通常、国際電話の場合、その料金的な問題と時差の関係から、利用頻度が少なくなるのが普通である。料金的な問題はご存じのとおりだが、特に時差の問題は、以外と大きくアメリカ東海岸の場合、13時間の時差があり、ちょうど日本とでは、夜と昼が逆転しているわけである。
また、手紙であれば、1週間近く日数がかかり、頻繁にメッセージの交換はできない。特に短期のプロジェクトの場合には、日本と手紙でやりとりをするということは不可能である。したがって、ファクシミリの普及していないアメリカとやりとりをするには、従来は電話かテレックスしか有効な手段はなかったのである。
国際ネットワーク導入への布石―政経ネットUSA
「日本人が相互のコミュニケーションのためにアメリカのネットワークを使うというのは、今回の政経ネットUSAが初めて。従って、非常に困難なことだと予想されたが、前述の実験などを積み重ねてきた経験から、挑戦した。」と宇佐美氏は語る。
1988年初句、松下政経塾は初めての試みとして、国際シンポジウムをアメリカで行うことを計画した。テーマは「日米摩擦の本質を探る」である。9名が2カ月間のアメリカでの研修を行ったのち、その研修成果を持ち寄り、発表を行なおうというものであった。研修の期間は、1988年4月下旬から、6月いっぱいまでで、この短期間にいくつもの州を渡り歩き、インタビュー調査、現地取材、企業研修を行うというものである。
電子ネットワーク利用の目的は、@お互いの情報交換、A研修経過の報告 B相互の研修助成、C日本との連絡などであった。また、「プログラム終了後、6月下旬にワシントンDCとミネアポリスにおいて国際シンポジウムを予定しましたが、シンポジウムのために全員が集まれる期間は1週間足らずだったんです。このため、それぞれがばらばらに離れた研修先から、常にコミュニケーションを図る必要がありました。」という。このように、政経ネットUSAは
明確な目的を持ち周到な準備のもとにスタートした。
実際に使ってみると、移動の激しい人とのコミニュケーションの手段としてワープロ通信は、絶大なる威力か発揮したという。2ヵ月の間に研修生はアメリカ国内を多い人は5,6カ所もの移動を行った。このように移動の激しい場合には、手紙は勿論、電話でのやりとりも意味をなさなくなってくる。9人もの人と日本から常時連絡をとるというのは、ワープロ通信以外の手段では、繁雑極まり無いものとなったであろう。
政経ネットUSAを使うとどうなるか。特に日本にいるスタッフからみると、たった一つのネットワークにアクセスすることによって、海の向こうで頻繁に移動する9人の塾生と簡単に連絡が取れるため
日本にいながらにして彼らの全行動を把握し、常に連絡が取れるというメリットがあったのである。
政経ネットUSAの概要
この政経ネットUSAは、以下のようなシステムによって構成される。使用ネットはメタネット(米国ワシントン)。ネットワーク方式はクローズド・ユーザーズ・グループ(CUG)で指定を受けた特定メンバ―のみが使用できるシステムである。ワシントンDCにあるメタネットのホストコンピュータを用いて、電子会議室を開設した。
使用端末は日本製携帯用ラップトップ型ワープロ(通信機能付き)。回線はATT公衆回線(最寄りのアクセス・ポイントまで)およびコンピュサーブ保有パケット交換網(ゲートウェイによりメタネットに接続)を使用した。使用言語は英語(米国国内の通信回線には、日本語がデータの長さの関係で不適合であり、使用不能だったため英語を使用した)
政経ネットUSA活用のエピソード
政経ネットUSAは「塾生相互の活動状況の連絡、シンポジウムの準備ということからもまずまずの成果を上げた」という。いくつかのエピソードを紹介してもらおう。
- コンピュサーブで、移動の際の格安航空券をワープロ通信で予約。
- また多くの塾生は、移動する直前にネットワークに「明日から、**に移動する。以後の連絡はそちらへ。」というコメントを入れて移動した。これだと、何も他のメンバー全員に伝えなくても、1通メッセージを送りこむだけで事足りるということになる。
- またある塾生は、日常の生活の様子を伝えたり、あるいは研修報告書を送り、研修の経過を綿密に伝えてきていた。
- またネットワークを使って、自分の研究分野について興味を待っている人を探し、研究に協力してもらったり、こちら(日本)からも研修の成果を送ったりしたケースもあった。
政経ネットJAPAN
この政経ネットは、塾出身の塾員の方々、そして塾生たちが互いに、情報交換し、離れたところからでも「衆知を集め、より大きな力を作り出せるような、ネットワーク作り」を目指している。
政経ネットの活用範囲は、@教育、A研究機能、B公報・社会活動の3つに分けることができる。
1)教育:壁のない学校
オンンライン講義録:塾を卒業した人が、瞬時にして全国どこからでも、塾で行われている講義録を取り出すことができる。
オンライン講義:実際に先生を呼んで受ける授業とそれをフォローするためのもの。
2)研究機能:オンライン・シンクタンクを目指す
オンライン・シンクタンク:必要な情報や研究が瞬時にして送ることができたり、電子会議を用いて離れたところから共同して研究
やプロジェクトが推進できる。
研究論文データベース、政策データベース、そしてオンライン共同研究などにより、どこにいても研究に参加し、また研究成果を
享受できる。
3)公報・社会活動:オンライン上で知的共同生産を実践
政経塾報の編集:塾報の原稿集めから、編集までの過程でオンラインは大変な活躍をしている。全国に散らばって活動している塾生
から、原稿が電子メールで送られてくる。これをワープロに保存し、ワープロでの編集を行なう。原稿のやりとりや連絡などは全て
オンラインでやっているそうだ。
政経塾のように、お互いが離れたところにいて、今まで共同で何かやるということが難しかった組織がワープロ通信によって「知的共同生産」ということが可能となったのである。
最後に「将来的には一般の方々ともこの政経ネットを通じて、ディスカッションや討論を可能にすることにより、政経塾の理念普及や参加型の新しい政治を実現していくことが出来るようになることを目指している。」そうだ。その内容は、「従来までの政治では、単に選挙で誰に投票するかということでしか一般国民は政治に参加できないのが通常であった。しかし、一般の人々とともに社会における問題点やその改善策を話し合うことにより、今まで埋もれていた一般の人々の意見を吸い上げ、政経塾出身の政治家や経済界など、色々な分野の人たちの手で現実の社会に反映していこう。」というものである。
これは、「21世紀の理想の日本を実現しよう」という塾の設立の目的を果たすための手段と位置付けられており、政経ネットは単に政経塾出身のものだけの活動ではなく、趣旨に共鳴するより多くの人々にも活動の輪も広げていこうというものである。
CUGで運営するメリット
現在、政経ネットは既存のネットの中のCUGで運営されている。そのメリットとして、1.ネットワークが保持するVANが使用できること、2.技術的な専任者がいらないということ、3.会員数が限定されていることなどが挙げられる。
また「政経ネットUSA」の内容を「政経ネットJAPAN」に転送し、返答は日本から政経ネットUSAに転送することによって、これら2つをリンクしている。
このため 双方の利用者である塾生は、国内のアクセス・ポイントまでの市内通話料金だけでアメリカと連絡がとれるということになるのである。
合理的・組織的なネットワーク
冒頭にも書いたが、政経ネットの特徴は 従来のネットワークのように そこに偶然集まった会員同志の間に新たな人間関係が生まれるというような「自然発生型のネットワーク」ではなく、明確な目的を持ち、既に同じ理念に支えられた強固な人間関係をもった組織が距離や時間の差をこえて共同作業しようという「合理的・組織的なネットワーク」という点にある。
したがって、趣味のネットとは異なり、会員は大半が文科系の出身者で、機械に対する抵抗感や偏見を待っている人もいれば、キーボードに触れることも初めてという人が相当の割合だそうだ。また自分から進んで入ってきた趣味のユーザーと違い、機械も新しく買い、説得してやってもらうという全く正反対のアプローチをしなければならないという困難もあったそうだ。しかし、政経ネットの場合、メディアには不慣れでも、全員がそれぞれ専門分野を待ち、強い目的意識に基づいたメッセージをもっているので継続していけば、必ず強力な武器になってくるであろう。
松下政経塾とは?
故松下幸之助が、1980年に「21世紀の日本が担う基本理念の探求とそれを実現する人材の育成」を目標に設立した財団法人。
現在162人の卒業生が政治(国会議員16人・地方議員22人・市長2人)や経済など各方面で活動している。
政経ネット動き出す
松下政経塾報「政経ネット 動き出す」
(1988年9月十15日号)
衆知を集める生命線
松下政経塾は今春から「政経ネット」 というパソコン通信ネットワークを開始しました。塾に生まれた「情報化プロジェクト委員会」が進めている画期的な全世界的規模のネットワークです。
松下政経塾が神奈川県茅ケ崎の地に設立されて以来、満9年が経ちました。この間、現在の1年生(9期生)まで含めると実に131人の塾生が門をくぐったことになります。
12人の現職の政治家をはじめ、経済界、マスコミ、研究者、国際関係と様々な分野で塾出身者が活躍するようにもなりました。また、塾生の研修も、全国各地、そして海外へと飛び、まさに全世界に、同じ志を持った同志が頑張っております。
この「政経ネット」は、塾出身の塾員、塾生たちが互いに、情報交換し、離れたところからでも「衆知を集め、より大きな力を創り出す」ネットワーク作りを目指しております。オンライン講義を利用すれば、塾を卒業した皆さんでも塾の講義に参加できたり、
また
日頃から塾の理念や共通政策について、長期的にそして継続的に話し合えるという具合です。
「政経ネット」の目標は、政治家を始め、経済界、マスコミなどおおくの分野で活躍中の塾出身者を中心に、各方面で研修を進める塾生―そして役員講師、ならびに海外のブレーン、また政経塾を応援してくださる一般の方々を、結びつけるネットワークを構築する事にあります。
これは、将来的には、松下幸之助塾主が言われた「衆知を集めるため」の基盤となるものです。
巨大なシンクタンク構築
「政経ネット」は、主に教育、研究機能、社会活動の3つの分野で応用を進めてまいります。教育の分野では、塾を卒業した皆さんが、全国どこからでも瞬時にして、塾で行なわれる講義録や松下政経塾報の記事、
レポートなどを取り出すことが出来るようになりました。これは「壁のない学校」の実現です。
また、必要な情報や研究が瞬時にして送ることが出来たり、電子会議を用いて離れたところから共同して研究やプロジェクトが推進できることから、研究機能が強化されます。
将来的には一般の方々ともこの政経ネットを通じて、 ディスカッションや討論できたりすることから、政経塾の理念普及や、一般の人々の意見が政経塾出身者の政治家や経済界など色々な分野の人たちに反映されるという、まったく新しい形の政治活動、社会変革運動が実現出来るわけです。
このことによって、塾全体の活動の輪が社会に広がっていくことでしょう。
3年計画で一般参加も
「政経ネット」は、 VANという特殊な大型の電話回線を用いていることから、もよりのアクセスポイントと呼ばれる所に電話をするだけで、全国の人たちと連絡できます。このアクセスポイントは全国の主要都市約50ぐらいにされておりますので、全国どこから使用しても、ほとんど料金が変わりません。ですから、東京から遠く離れたところに生んでいる人々には、もう電話代に悩まされることは無くなるわけです。
「政経ネット」には4つ機能があります。手紙と同じように、1対1でやりとりできる電子メール。不特定多数の人たちに対して、宣費をかけすに告知やお知らせが出来る電子掲示板。政経塾にとって最も重要な機能である電子会議。自分のほしい情報を瞬時にして検索できるデータベース機能です。
このように、今まで書くだけ書いて図書館の中に眠っていた卒業生の論文や講師の講義など.政経塾が独自に待っている情報を蓄積として活用できたり、
また日頃忙しいということでなかなか連絡が取れなかった、同期生や先輩後輩とも何も大阪や九州まで出向かなくても、電子会議やデータベースによって、連絡が取れるということになります。
このプロジェクトは、政経塾設立10周年に際して塾全体が全力を挙げて取り組むプロジェクトであると同時に、この政経塾につどった塾生、塾員、さらには一般の人たちが、今後ともに力を合わせていくための、生命線でもとあります。
この計画は実施期間として3年をかけて進めて参ります。まず初年度である今年は塾生・塾員に対して機械の普及を、自然な形で使っていけるように、定着をはかってまいります。
2年目には、政経塾独自でホスト・コンピュータを運営し、一般の方々にも参加して頂こうと考えております。
そして3年目には、一層充実させ、研究、社会設置活動への高度利用を考えています。
ニフティー・サーブ加入
「政経ネット」はいまのところ『ニフテイー・サーブ』(富士通、日商岩井の合弁。会員2万人)のネットワークの一部を借りて運営しています。ですから、政経ネットはニフティー・サーブのサービスも使えるという事になります。
政経ネット独自の内容は今のところ、電子会議とデータベースです。電子会議では塾生、塾員問間の情報交換の場である「塾生広場」。1年生が、入塾してからの塾での様子を毎日日記として書いている
A君の元気日記、これを読めば塾での生活の様子などが手に取るように解ります。
またアメリカ、ワシントンのホストコンピュータを用いて、海外研修を続けた8期生を中心に、海外で研修を行なう塾生、塾員も政経ネット USAを利用しております。そこでの会議の模様は、常にこの日本の政経ネットでもご覧頂くことが出来ます。もし、塾生、塾員が、海外の人たちにメッセージがあれば、このコーナーを使って海外の人たちと会議が出来るわけです。
この他にも、住所録、講義録、研究論文などのデータベース等、常に最新の情報が必要なときに引き出せます。
この塾報もネット編集
またこの度、発行された松下政経塾報「マンスリー・イブ」も、記事はすべて「政経ネット」からの情報で編集しました。
(塾員 宇佐美秦一郎 7期生)
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