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ネットワークによる組織変革と新しい社会
情報ネットワークを戦略的に活用することによって一体どのように組織変革、社会変革が進むのであろうか?下の事例は、ネットワークを活用したシンクタンクである米国『メタネット』の組織改革の思想と、身体的ハンディキャップを乗り越えて、自由で平等なこころあたたまる人間関係の事例である
●『パソコン通信はあなたの組織を変革する』
宇佐美泰一郎/木村孝 共著 東京書店 (一九八九年八月三十日発行)
今までの会社組織であれば,どうしても会社という一定の枠や組織にとらわれる。しかもヒエラリカル(封建的)なピラミッド型の組織が一般的であり,組織における上と下,あるいは会社の内と外,こういった区別が厳然として存在する閉ざされた(クローズドな)組織である。
しかし今日,日本の多くの企業のように,企業の規模が大きくなり,技術革新・消費者意識の変化など企業環境が激変するようになると,当然そうした大規模な組織,硬直化した組織では敏速な対応が取れなくなってくる。そこで,事業部制,マトリックス組織,ホロニック・マネジメントなどの必要性が叫ばれだしたわけである。
ところが,このメタシステムズ社はこうした企業組織の論理をさらに突き詰め,高度情報化社会に対応するネットワーク組織による企業経営を行ってきたことになる。
個々の企業は,自らの組織内部にあらゆる部門を抱え持つというのではなく,必要なときに必要な企業や個人と連携し,プロジェクトを進めていく。勿論これは,東京下町の印刷業界や鋳物で有名な埼玉県の川口市などでも,こうした業務形態をとっている例が古くから見られるが,メタシステムズの場合,これが−つの地域に集まった同種の企業とのグループではなく,世界中の,それも全く専門分野を異にする企業,個人との連携を行うという,ほかに類を見ない企業グループを形成している。
このことこそ,メタンステムズ社の最大の特徴であると同時に,またパソコン通信を最大限活用するからこそ可能な未来企業の姿なのでもある。
メタシステムズ社の設立の経緯
何故この企業がこれほどまでに,組織の問題にこだわるのか?
自ら進んで,時代の先端を担う組織改革に取り組むのか? 彼ら目指すネットワーク組織とは?
これらの疑問を解決するためには,フランク社長のバックボーを知る必要がある。このような経営哲学の背景には,フランク・バーンズ社長の独特な経歴が大きく影響しているからである。
長年アメリカ陸軍に務めた彼は,陸軍大佐まで昇り,その後国防総省ペンタゴンの特殊プロジェクト,テルタフォースのリーダーとして招聰を受けた。このプロジェクトはベトナム戦争によって痛手を受けたアメリカ軍隊の再建をかけて,約350名の研究員を集めた,大変有名なプロジェクトでもある。
彼らは,最新のシステム理論や,自然破壊,人間の意識の転換,あるいは近代文明社会の行き詰まり,文明的パラダイムの転換等,単にアメリカだけでなく,人類全体がかかえている大きな問題という視点からアメリカ軍隊の建てなおし,アメリカの再建を考えていった。
ちょうどその頃,やはりケストラーのホロン,ワトソンの生命潮流というような本が巷であふれてた頃でもあった。もはや西洋文明,合理主義だけでは解決の糸口は見つからないと考えた彼らは,東洋思想,特に仏教や禅の思想に深く傾倒していく。
そしてもう一つ,彼らプロジェクト・メンバーは,ペンタゴンで公式に行う仕事の他に,集まったメン'バーが独自の思想を寄せあい,プライベイトに研究を進めるという2本立てで望んだのであった。この私的な研究のメンバーたちは,多くの発想と考えを闘わせやがて−つの考え方に収束していく。
そして彼らは,その成果を−冊の文書として残す。「進化への戦術(Evolutionary Tactics)」。ここでは,彼らは自分たちを地球部隊(Earth
Battalion)と称して,単に体力や戦闘技量だけを持った兵士から全人格的な「塊」を持った兵士の養成こそ重要であり,その遂行こそ地球部隊の役目であるという認識を持っていたのである。そしてメンバーのほとんどが,それを単に軍隊組織だけでなく,あらゆる組織を念頭において理論構築を行ってきた。
それこそが西洋合理主義に裏付けされた組織の限界を打ち破る方法だと強く信じて。
このことは,会社組織に置き換えれば,単なる兵隊としての社員から,全人格的な社員の養成こそが,本当に組織を鉄壁のものにするということになろう。単なる組織の歯車として働くのではなく,使命感を持ち,魂を持った個々の結集こそ最強の企業組織を作り上げるのだということである。
「進化への戦術」のなかには大きく6つのテーマが定められている。「価値観の変換」,「個人の意識の進化」,「革新的なチームワーク」,「魂を持った兵士」,「地球共同体」そして「進化への資源」という6つである。
彼らは,システム論をベースに東洋思想をも包含する学際的な研究プロジェクトを進めた。彼らの目標は,人類全体が共通の価値観と目標を持つ共同体に変革していくことであり,このことを「進化」という名前で呼んだのである。
そして,彼らの取り組みは,単なる理論だけに終わらない,実践的な処方箋を示した。このことから生まれたのが,以下の2つの柱から成る O T(Organizational
Transformation)という組織変革のための実践理論であった。
(1) 組織レベルの進化
フランク・バーンズ社長によれば,組織は主に4つのレべ ルを経て進化発展する。まだ第一の段階では,過去の結果に縛られ,環境に左右されながら,罰則主義の強制的なリーダーシップを行うバラバラな組織(Fragmented)の段階。第二に,現在の生産性に迫われチーム・プレーを主体とし,教育的なリーダーシップを行う封建的な組織(Hieratchy)の段階。第三に,未来に向かっての目標を掲げ,組織としての戦略に重点を置き,前向きな目標管理によるリーダーシップを行うマトリクス型の組織(Matrix)の段階。最後に,共通の価値観をベースに,より高い理想とさらなる発展を目指して,互いの夢を共有した情熱的なリーダーシップによるネットワーク型の組織(Network)の段階である。組織はこうした4つの段階を経て進化発展していくという考え方である。
そして,この組織の進化にあっては,リーダーシップ,モチベーション,価値観構造,計画など様々な諸要素がからみあっており,中でも組織構造を支える大きな要因はコミュニケーションの方法だというのである。
(2)組織内部のコミュニケーションの役割
こうした組織のレベルを,より上のレベルへと発展させるためには,組織内部のコミュニケーションの役割が極めて大きい。これには組織の人間があるテーマに対して互いの意見や考え方を集め(S
C AN),そこから共通の意識や明確な計画を導きだし(F O C U S),実際の行動をおこす(ACT)という一連のステップがある。
こうした3つのステップを円滑に運営し,しかもそこから全員に共通する価値観や目標を見つけだし,「衆知を集める」 という過程をとおして組織がレベルアップするというわけである。
フランク・バーンズはこの考えに立ち,ペンタゴン内部でパソコン通信(中でもとりわけ電子会議)を導入して,組織変革の実験を試み,大きな成功を修めた。その後,彼は軍隊のみならず,政治・経営など様々な社会の分野において,この理論を実践し,実際に社会を変革していくために,電子会議という「新しい武器」を用いたMDGという会社を設立したわけである。
こうした現代の危機的状況を前にして,高い理想に燃えたデルタフォースのメンバーたちのチームワークは極めて強固なものであった。実はこの時のメンバーが,今のメタネットの中核を支えているのである。
触れ合いのある人間関係
〜盲目の自由人 マイケル・エッセマン
人間的なオフィス,人間的な企業には,実に多くの人々が集まってくる。私が研修を始めてから,メタネットの会員を集めての最初のパーティが行われた。
この時,私は衝撃的な人物と出会った。彼の名前はマイケル.エッセマン。電子会議の中では互いによく議論し,電子メールのやりとりもしていたので,まだ会ったことがないとはいえ,気心は知れていたし,親しくしていた。
しかし,彼に初めて逢ったときの,驚きと衝撃は今でも忘れない。電子会議の上では,よく発言し,大変気さくで積極的な彼だが,実は全く目の見えない盲目の人だったのである。
パーティーの当日,彼は集合時間よりも−時間ほど早くやってきた。実はオフィスのドアを開け,ゆっくりと杖をつきながら彼が入ってきた。
盲目だと知らなかった私は,失礼だがこう聞いた。
「失礼ですが,どちら様でしょう?」
すかさず彼はこう答える。
「はじめまして。私はマイケル・エッセマン。よろしく」
彼の表情には笑みが絶えない。私は言葉を続けた。
「本当にマイケルさんですか? 失礼ですが,あなたが全く目の見えない方だなんて知りませんでした…』
マイケルは,ニコリと笑い,私の言葉をさえぎるようにこう続けた。
「皆同じことを言うんだな。僕が目が見えないってこと,ネットワークの会員は誰も,初めは信用しないんだよ」
彼の言葉には自分が身障者である事への気後れは全く感じられない。
「僕がどうやって皆と会話してるか見せて上げるよ」と言って,
彼はデモンストレーションをしてくれたのである。
まず送られてきた文章をどうやって読むかということであるが,写真のように小さな音声発信装置と専用の特別なソフトを用いる。パソコン通信で,会話をしようとすれば,当然まず相手から送られた文章を,読まなくてはならない。普通はパソコンの画面に文章が表示されるわけだが,目が見えなければ,読むことは出来ない。
この時,マイケルさんの場合は,特殊なソフトと音声発信装置が組み合わされた,この機械を通して文章を「聞く」のである。
機械からよく映画にでてくるようなコンピュータの合成音で「聞く」のである。なかなか聞き取りにくいのだが,慣れれば分かるらしい。
次に,会話をするためにはこちらからの発言が必要になるのだが,今度もこの音声発信装置が大きな威力を発揮する。タイ、プライターの経験がある彼は,大体キーボードの配置を覚えているので,まず手探りでアルファベットを深し,打っていく。この時,たとえばAなら「A」と打ち込むと,この機械が先程の合成音で,「エー」と読み上げてくれる。こうして順番にひとつひとつアルファベットを打ち終えて,文章が出来上がると,ピリオドを押す。
すると今度はその文章全体を読んでくれるのである。こうしてマイケルさんは,目が見えなくてもパソコンが出来るわけである。
私は唖然とした。最初一体どうやって文章を読むんだろう,どうやって発言を書きこむのか,正直言って大変興味深かった。好奇心もあった。いままでマイケルさんが打ち込んできた発言は,普通の人の文章とは全く変わりがないし,不思議でならなかった。
そして,その時目の前で種明かしされていることに対して,この世のものとは思われないような気持ちさえした。
そして思わず心の中で叫んだ。
「目が見えなくたって,パソコン通信が出来るんだ。離れた人と会話できるんだ」と。
そして最後に私は,恐る恐るこう聞いてみたのである。
「マイケルさん,すごい。信じられない。驚きだ。でも一つぜひとも聞きたいことがあるんだ。これを使い始めてから君の生活に何か変わったことはありました?」
彼は自信に充ちあふれた声で,こう答えた。
「ああ,おおありだよ。僕の人生はこれで一変したんだ。僕たち身体障害者は,ともすれば自分の殻に閉じこもって,その世界の中だけで生活してしまうものだ。たとえ親切な人がいても,心の中で気後れがしてしまう。結局は差別や偏見は拭い去れないんじゃないかって。それに僕たちの体では動き回って友達を見つけることすら出来ないのが普通さ」
さらに彼の言葉は続いた。
「しかし,この世界だけは違う。いつでも好きな時に,世界中の友達と話すことが出来る。この世界では,目が見えないということでの偏見もないし,自由に飛び回って新しい友達を見つけだすことが出来るんだ。これがなかったら,皆に逢うためにこうして出てくることもなかったと思うよ」
そう話すと一瞬間を置き,最後にこう一言付け加えたのである。
「自由で平等なこの世界は僕に,かけがえのない勇気を与えてくれた」
一般に「機械」とか「技術」とか聞くと誰しも「非人間的な冷たいもの」というようなイメージをもってしまう。人とあって話したほうがどれほどいいか確かにその通りだけれども,人と会いたくても会えない人もある。
しかしメタネットでは電子会議という一見「血の通わない非人間的なもの」と思われがちな道具を使って,今までにはない人間関係が生み出されている。
時間に制約されず,何時何処からでも居ながらにして,今まで知らなかった人たちと知り合うことが出来,長く継続的に話し合うことが出来る。
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