トップ / 改革理論 / 変革期におけるトップマネジメントの本質


第5節 研究方法

5-1 本調査

 前節までに作成した理論モデルをもとに、本調査では統計解析をおこなう目的で、実際にデータの収集を以下の要領で行った。
(1)対象企業
 従業員数50名以上の企業(全業種)
 *出来る限りバラエティーに富んだ外部環境の状態をデータとして収集するため、業種は全業種を対象とした。
(2)調査対象者
 原則として意思決定に最も影響を及ぼす社長。もしくは取締役会に参加可能な取締役以上の会社役員。
(3)調査方法
 面接調査(あらかじめ作成された同一の書式にもとづき、逐次説明を施しながらアンケート調査を行う。)
 *面接調査を用いたのは、アンケート内容の性質上、各企業ごとに、それぞれの事情に応じた口頭の説明が必要だったということと、また質問の内容が各企業にとって、外部に明かしにくい企業秘密的なものがあり、面接以外の方法ではデータにたいする信頼性が著しく低下するためである。
(4)調査時点
 昭和60年9月26日〜昭和60年11月29日
 *面接時間は、アンケート(15〜20分)、インタビュー(20〜30分)で行った。
(5)サンプル数
 面接企業54件(有効サンプル52件)
 *従業員数・業種、その他対象基準に外れるものは、サンプルの中から除外した。
(6)アンケート内容

5-2 研究手順

 本研究の基本的な流れとしては、(1)データの加工(2)重要要因の選択(3)企業群の分類(4)『環境判断‐トップのアクション』関係分析の順であり、この後、検討・考察を行うわけである。
(1)データの加工
 @トップのアクションの集約・数量化
  本研究の大きな特徴の一つは、複雑で多様なトップ・マネジメントを体系的に整理し数量的にとらえることであった。ここでは、『全体的方向性』・『製品開発意識』・『社外との関係』・『組織への対応』ごとに数量化理論V類を用い、個々の軸の解釈を行った後、そこから得られたカテゴリー・ウエイトを、後で用いる数量化理論T類の被説明変数とする。
 A副詞の数量的尺度化
  名古屋大学の織田氏の研究によれば、例えぱ『全然』という副詞を0とすると、『どちらとも言えない』は2.09、『やや』は3.62、『非常に』6.98なる。これらをもとに、ガットマンの一対比較法から、アンケートで得られたデータの数量化を行う。
 B内部条件のデータのカテゴリー化
  本調査では、内部条件を細分化された項目で調査して。そこで、その項目ごとのデータにたいし、主成分分析を行い、得られた主成分得点によって『強み』・『普通』・『弱み』の3つのカテゴリーに分類する。

(2)重要要因の選択
 本研究において説明変数としては、『外部環境』4つ、『内部条件』7つ、『企業特性』3つの合計14あり、これをさらに詳細な分析を行
うために、重要要因の選択を行う必要がある。そこで全サンプル企業に対して数量化理論T類を行った後、得られた偏相関係数の高いものを重要要因として選択する。
(3)企業群の分類
 本研究では、資本金利益率・売上高利益率・従業員一人当たりの利益高の3つの指標をそれぞれの業界平均で割ったものにたいして、主成分分析をおこなうことによって3つの指標を総合化し、主成分得点によって『高収益企業群』・『低収益企業群』の2つに分類する。
(4)環境判断‐アクシデントの因果関係分析
 (3)までで得られたデータをもとに、重要要因に絞って各企業群ごとに、環境判断‐トップのアクション因果関係の分析を行った上で、企業群ごとの対比を行うことによって『変革期における有効なトップ・マネジメント』を最終的に明らかにしようというものである。これには各企業群ごとに数量化理論T類を行得ことによって、そのの因果関係の分析をおこなう。

5-3 分析手法

 本研究で用いる主な多変量解析(統計的解析手法の一種)について若干の説明をおこなっておこう。
@主成分分析
 例えぱ、中学校のテストで英語・数学・国語・理科・社会と5教科あったとするとこのままの形では5つの尺度が存在して『誰が良くて、誰が悪いのか』非常に理解しにくい。そこで、なんらかの方法によってこれらを総合化した尺度を作りたい。しかし、教科によって難しさが異なるので、ただ単純にこれらを加えることは好ましくない。そこで教科間の得点のぱらつきを考慮したうえで、これらを総合化する必要がある。主成分分析とはこのような目的で用いられる統計手法である。
A数量化理論皿類
 本研究においては、トップのアクションを数量化するのにこの手法を用いている。いま何人かの人々にたいして、10人の女優の中から好きな人を3人選んでもらうとすると、そこにはいくつかのパターンが存在する。たとえぱ日本的な女性をえらぶパターンや、優しい感じの人を選ぶパターンなど、そこにはサンプル(この場合、選ぷ側の人)そしてカテゴリー(この場合、選ぱれる女優)ともにある種のパターンに分けられるわけである。この数量化理論V類はそうしたパターンを統計的に数値でとらえようというものであり、たとえぱ吉永小百合は『日本女性』では80ポイント、『優しい女性』では65ポイントなどと出てくるわけである。
G数量化理論T類
 Y=f(x1,x2,・・・)という統計モデルがあると、Yを被説明変数と呼び、x1,x2などを説明変数と呼ぷ。この場合、被説明・説明変数ともに数量であっても、またカテゴリー(『熱い』とか『やや寒い』など)であってもいいわけである。数量化理論T類とは、被説明変数が量的
変量(数量)であり、説明変数がカテゴリー(質的変量)である場合にもちいられる多変量解析手法である。本研究の場合、被説明変数に数量化理論V類によってパターン化された『トップのアクション』を、そして説明変数にはカテゴリー化された『内部条件』・『外部環境』・『企業特性』があたる。また重要要因の選択の際用いた偏相関係数とは資本力とか業種とかの要因がどの程度被説明変数であるトップのアクションにたいして影響を与えるかを表すものであり、また偏回帰係数とは資本力が『強み』の場合、どれだけ品質指向性を示すかというように個々の要因間のカテゴリーに対する被説明変数の数量を示す。

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