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2-13 触合いのある人間関係〜盲目の自由人 マイケル・エッセマン

 人間的なオフィス、人間的な企業には、実に多くの人々が集まってくる。私が研修を始めてから、メタネットの会員を集めての最初のパーティが行われた。
 この時、私は衝撃的な人物と出会った。彼の名前はマイケル・エッセマン。電子会議の中では互いによく議論し、電子メールのやりとりもしていたので、まだ会ったことがないとはいえ、気心は知れていたし、親しくしていた。
 しかし、彼に初めて逢ったときの、驚きと衝撃は今でも忘れない。電子会議の上では、よく発言し、大変気さくで積極的な彼だが。実は全く目の見えない盲目の人だったのである。
 パーティーの当日、彼は集合時間よりも一時間ほど早くやってきた。実はオフィスのドアを開け、ゆっくりと杖をつきながら彼が入ってきた。
 盲目だと知らなかった私は、失礼だがこう聞いた。
「失礼ですが、どちら様でしょう?」
 すかさず彼はこう答える。
「はじめまして。私はマイケル・エッセマン。よろしく」
 彼の表清には笑みが絶えない。私は言葉を続けた。
「本当にマイケルさんですか?失礼ですが、あなたが全く目の見えない方だなんて知りませんでした...」
 マイケルは、ニコリと笑い、私の言葉をさえぎるようにこう続けた。
「皆同じことを言うんだな。僕が目が見えないってこと、ネツトワークの会員は誰も、初めは信用しないんだよ」
 彼の言葉には自分が身障者である事への気後れは全く感じられない。
「僕がどうやって皆と会話してるか見せて上げるよ」と言って、彼はデモンストレーションをしてくれたのである。
 まず送られてきた文章をどうやって読むかということであるが、写真のように小さな音声発信装置と専用の特別なソフトを用いる。パソコン通信で、会話をしようとすれば、当然まず相手から送られた文章を、読まなくてはならない。普通はパソコンの画面に文章が表示されるわけだが、目が見えなげれば、読むことは出来ない。
 この時、マイケルさんの場合は、特殊なソフトと音声発信装置が組み合わされた、この機械を通して文章を「聞く」のである。機械からよく映画にでてくるようなコンピュータの合成音で「聞く」のである。なかなか聞き取りにくいのだが、慣れれば分かるらしい。
 次に、会話をするためにはこちらからの発言が必要になるのだが、今度もこの音声発信装置が大きな威力を発揮する。タイプライターの経験がある彼は、大体キーポードの配置を覚えているので、まず手探りでアルファベットを探し、打っていく。この時、たとえばAなら「A」と打ち込むと、この機械が先程の合成音で、「エー」と読み上げてくれる。こうして順番にひとつひとつアルファベットを打ち終えて、文章が出来上がると、ピリオドを押す。
 すると今度はその文章全体を読んでくれるのである。こうしてマイケルさんは、目が見えなくてもパソコンが出来るわけである。
 私は唖然とした。最初一体どうやって文章を読むんだろう、どうやって発言を書きこむのか、正直言って大変興味深かった。好奇心もあった。いままでマイケルさんが打ち込んできた発言は、普通の人の文章とは全く変わりがないし、不思議でならなかった。そして、その時目の前で種明かしされていることに対して、この世のものとは思われないような気持ちさえした。
 そして思わず心の中で叫んだ。
「目が見えなくたって、パソコン通信が出来るんだ。離れた人と会話できるんだ」と。
 そして最後に私は、恐る恐るこう聞いてみたのである。
「マイケルさん、すごい。信じられない。驚きだ。でも一つぜひとも聞きたいことがあるんだ。これを使い始めてから君の生活に何か変わったことはありました?」
 彼は自信に充ちあふれた声で、こう答えた。
「ああ、おおありだよ。僕の人生はこれで一変したんだ。僕たち身体障害者は、ともすれば自分の殻に閉じこもって、その世界の中だげで生活してしまうものだ。たとえ親切な人がいても。心の中で気後れがしてしまう。結局は差別や偏見は拭い去れないんじゃないかって。それに僕たちの体では動き回って友達を見つけることすら出来ないのが普通さ」
 さらに彼の言葉は続いた。
「しかし、この世界だけは違う。いつでも好きな時に、世界中の友達と話すことが出来る。この世界では、目が見えないということでの偏見もないし、自由に飛び回って新しい友達を見つけだすことが出来るんだ。これがなかったら、皆に逢うためにこうして出てくることもなかったと思うよ」
 そう話すと一瞬間を置き、最後にこう一言付け加えたのである。
「自由で平等なこの世界は僕に、かけがえのない勇気を与えてくれた」
 一般に「機械」とか「技術」とか聞くと誰しも「非人間的な冷たいもの」というようなイメージをもってしまう。人とあって話したほうがどれほどいいか確かにその通りだげれども、人と会いたくても会えない人もある。
 しかしメタネットでは電子会議という一見「血の通わない非人間的なもの」と思われがちな道具を使って、今までにはない人間関係が生み出されている。時間に制約されず、何時何処からでも居ながらにして、今まで知らなかった人たちと知り合うことが出来、長く継続的に話し合うことが出来る。
 メタネットの会員同志が別れ際に決まって交わす言葉がある。
それは、"Goodbye"でも“See you later"でもない“See you online"という言葉である。今度はネットワークの上で会おうと。そこには,本当の意味での「人と人との繁がりがあるのかもしれない」
「このパソコン通信をビジネスに使ったら...」結果はまだ分からない。しかし、予想外の大きな効果があることは違いないだろう。

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