トップ / 改革理論 / パソコン通信はあなたの組織を変革する


2-12 電子出版(デスク・トップ・パブリッシング)

 さて先秘の「ハイライト」というオンライン会報誌なのであるが、この出版の過程が大変興味深い。先程までパソコン通信。なかでもとりわけ電子会議の効用について話してきたが、ただ気になるのは、ワープロで打った文章をやりとりするということである。
 電話なら音声、声にやりとりだから簡単であるし、手紙でも字の上手い下手はあれ、ほとんど誰もが字は書ける。しかし、ワープロということになると大分話は異なってくる。
 必ずしも老若男女すべての人が、ワープロを打てるわけではない。たとえ打てたとしても、キーポードから入力するスピードを考えると、やはり多少の不便はあっても電話ですましたり、直筆で書いてFAXで送った方が、大半の人たちにとっては、よほどスピーディに違いない。
 だから会社でよほどの正式文書なら、たとえ時間がかかってもワープロで打とうと思うが、どうしてわざわざ「どうしてますか?」「元気ですか?」という時候のあいさつや、メモでもすますことの出来る事柄をワープロで打つだろうか?
 パソコン通信の普及を単純に考えた場合、ワープロ人口以上には決してならないということである。それも身近なビジネス・ツールとして考えた場合、どうしても今の技術的レベルからすれば、相当の早さでキーボードからの入力が出来る人間にしか広がらないかもしれない。
 タイプライターで手紙でも文章でも打ってきた長い歴史を持つ欧米諸国に比べれば、わが国の場合、事情はもっと深刻であろうと思う。正直に言うとパソコン通信の機能がどれほど優れているかという話をする以前の問題として、ワープロの普及と、またキーボードからの入力速度がどれほど早いかという問題が存在するわけである。
 しかしである。私はこの「ハイライト」という会報誌の編集出版の過程を見て、その疑問は一気に消え去ったのである。確かにワープロで入力することには、非常に多くの時間がかかる。しかし、もしワープロで入力することによって、かかった時間以上の効果が上がるとすればどうだろう。
 ミニコミ誌や会社の社内報などの編集の仕事をされた方ならば、たとえ一冊の雑誌であれ、非常に骨の折れる大変な作業であることはご存じのはずである。まず、編集のコンセプト、テーマを決め、取材を行う。その一方で、レイアウトや表紙の図柄を定め、原稿を出し、校正を行う。印刷会社との折衝を行い。原稿を渡し、出てきたゲラを初稿、第二稿と手直し、チェックを加えたうえで、印刷製本とこぎつけるわけである。この過程に関る人件費、取材費、印刷製本代だけでも大変なコストであり、労力のいる作業である。
 しかし先程の「ハイライト」の場合、なんとこの過程をたった一人の人間が2日から3日ほどですべて終えているのである。しかもこれに関るコストは異常に安い。これが篤異なのである。
 まず、原稿集めについてである。これは。メタネットというネットワークが驚異的な情報収集源となる。なにしろ各分野の専門家が一同に集まり、色々なテーマに関して本音をぶつけあって討諭する。
 これは、組織問題に限らず、リーダーシップとマネジメント・企業戦略など企業経営の問題、政治経済・自然環境の問題・女性問題等の社会問題、異文化コミュニケーション・国際理解などの問題、個人の意識的進化・成長などの問題などについて現代でも先進的なテーマに関ずる討論が目白押し。この中から、毎回二つずつテーマを選び、その中でも特にホットな議論を選択すればいいのである。
 これをワープロのフロッピー・ディスクにダウンロードする、これはネットワーク上に書かれた文章をそのままの形で。ワープロのフロッピィ・ディスクに保存するもので、あとで容易に修正したり、変更したり出来るものである。このため文章の書き直しや、修正等はワープロの文章として変更する。
 次に、パソコンの文書編集用プログラムを使って、編集を行う。これはパソコンのソフトの一種で、レイアウトが決められ、表枠が書けたり、イラストが挿入出来たりするもので、勿論先程の文章を流し込むことが出来る。こうして、版下の段階までは、パソコンを使って、すべて作ることが出来るわけである。
 しかし、普通のワープロではドットで印刷される。つまり、活字のように滑らかな字体で出てくることはない。しかし、「ハイライト」ではレーザー・プリンタを使い、これを活字の状態で打ち出すことが出来るわけである。
 日本でも大手の新聞社などでは、記者からの原稿を電子出版の技術を使い画面上で修正変更を行ったのち、大型の電算写植機にかけ印刷を行うという技術が普及しているが、これを小さな規模で、パーソナル・レベルで行おうというもので、大変スピーディーで効率が高い。
 このことをデスク・トップ・パブリッシング(DTP)と呼んで、目本でも徐々に普及しはじめている。アメリカでは、今やDTPの大ブームで、町でよく学生などが使うコピー屋にこの機械が貸し出しサーピスされている。フロッピィ・ディスク一枚持って、コピー屋さんに行き、活字になった自分の文章を持って帰る学生が後を断たないというのである。
 これによって、版下まで作成したものを、印刷屋さんで印刷製本してもらい完成。面倒な校正は、画面を見ながら、あるいはプリント・アウトして版下の原稿の段階でチェック出来るので、何度も印刷屋さんへ通う必要はない。
 ネットワークの利用は、単に情報の取材だけには止まらない。先に紹介したビリーさんは、「ハイライト」の編集責任者であるが、私もこのハイライトの仕事を手伝っていた。例えばこうである。
「ねえ、文章出来上がったから、レイアウトとイラストはお願いね」と彼女から電子メールが送られてくる。勿諭文章も一緒に送られてくるわけである。レイアウトは、毎回パターンがあるので、前回の文がフロツピィ・ディスクに保存してあり、これに多少の修正を加えるだけですむ。
 この場合、彼女の使っているワープロと私のワープロとは、メーカーも機種も違うので普通なら、文章のやりとりは出来ないのだが、電子メールを使えば、打ち直す必要は全くない。彼女の打った文章のそのままを、使うことが出来るわけである。
 イラストもマウスを使って簡単に作れる。これは、キーボードから入力するのではなく、画面上に→がついていて、このマウスを動かすと、この矢印が上下左右自由手元のマウスと同じように動く。そして指示を出したいときなどはマウスについているボタンを押すとコンピュータに指示出来るものである。これを使ってマウスを動かし、簡単に絵を描いたりすることが出来る。
 レイアウトだげ作っておき、そこに文章と、先程のイラストを入れ込む。これで私の仕事は完了する。あとはレーザー・プリンターで印刷した版下をビリーさんの所へ持っていって、終わりというのである。
 このように、パソコン通信を使えば、情報の収集や加工整理は極めて容易に出来、また共同して文章を作ったり、協力して「知的共同作業」進めることが可能になる。そして、ワープロで打たれた電子情報は単に、プリント・アウトして終わりという世界から、加工修正を加えられ紙媒体へと変化したり、通信によって送ることのが出来たり、小さなフロッピーに保存していつでも取り出すことが出来たりする。
 これによって、多くのファイルが山積みされた今のオフィスから、未来のオフィスに様変わりすることになろう。思い起せぱメタシステムズ社のオフィスが、ゆとりある空間と絵画や置物などの芸術品が並び、人間的な空間である理由が、ここにも存在するのだろう。

前へ