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2-6 心暖まるネットワーク

 この企業で、私はまずこの企業の運営する「メタネット」のシステムの探検、つまりネットワークに何が書き込まれ、どのような構成から成り立っているのかを学ぶことから研修が始まった。
 このネットワークには、主に電子メールと電子会議、そして簡単な電子掲示板の機能がついている。システム運営をしているスコットさんに、登録をしてもらい、使い始めたのである。
 このシステムの中には、一般の会員が使えるいくつかの会議と、企業などがその一部を借りて特定の会員しか使用できないクローズドな会議の2種類ある。勿論契約者以外はこのクローズド会議を覗くことすらできないという厳重なものである。
 私は、一般の会議のなかでも「サロン」と呼ばれる会議から,使い始めてみた。最初に使うときには,入会登録として,まず名前、電話番号、簡単な自己紹介文を書くところから始まる。
 名前は実名。日本のネットワークではペンネームというところも多いが、メタネットでは、あくまで仕事上使ったり,共同してプロジェクトや研究を進めたりということが多く、発言する側もあくまで実名を使って発言に責任を持つ必要がある。また、電子会議は文字だけによる情報の交換であるから、長期間,双方が実名を使って会話を交わしていると、やがて相手の人柄なども自然と分かってくるものである。そして実際にその相手と会った場合にも、すぐにその人間だと分かってしまうものである。
 次に、何故電話番号を書くのか?
 よく日本のパソコン通信ユーザーが「電話とパソコン通信はどちらが便利か?」など議論をしているのを見かけるが、こんな質問はメタネットのメンバーには、ある意味でナンセンスなのかもしれない。
 リサさんは、この点に関してよくこういうふうに言ったものである。「私達の目的は、社会の組織をもっと自由で人間的なネットワーク組織にしていくことが目的なのよ。そのために通信の手段は、かかせないわ。電話も手紙も便利な道具でしょう。でもねパソコン通信は、ネットワーク組織を作るうえに欠かせない道具なのよ。もし世界中の仲間と毎日のように会って話ができたら必要ないかもしれないけど、でも現実的には無理でしょう。だからパソコン通信を使うのよ。もちろん電話も手紙も、そしてチャンスを作って実際に顔と顔とを突き合わせて会ったりもするわ」
 彼らの目的はパソコン通信そのものではなく、ビジネスの上でいかに先進的なネットワーク組織を実現していくかである。だからこそ、電話も使えば手紙も使う。そしてネットワーク作りのための(現段階での最高の道具として)パソコン通信も使うというのである。
 そして登録の最後には必ず自己紹介をすることになっている。これにはいくつかの目的がある。まず第一に、その人間のバック・グラウンドと専門分野が分かる。メタネットの場合、会員の質が極めて高いのが特徴である。組織問題のコンサルタントを中心に、大学教授や企業経営者、大企業の中堅幹部、政治家、政治スタッフ、軍関係者その他、非常に多彩な分野の専門家が集まった専門家集団である。
 彼らの住んでいる地域は、先程も述べたように全米各地、そして全世界へと広がっている。しかし、このネットワークでは、住んでいる地域は違ってもお互いに同じ問題意識を持った人間、共通の専門分野の人間がおり、それぞれの専門分野が分かれば、たとえ面識がなくてもかなり突っ込んだ話が出来るという特徴が出てくる。
 また例えば「アメリカの財政赤字の解消政策」について、話し合う際にもそれぞれ違った視点から同一のテーマについての討論が行えることから、ユニークな発想、予想外の解決策も導き出すことが出来たりするわけである。
 そのために互いの自己紹介は非常に大きな意義を持ってくる。もし必要とあれば、電話をかけてその人間と会うことだって出来る。もうこれは、一種の「人脈バンク」のようなものである。
 よく東京のビジネスマンが、「東京では人と会うチャンスが多く、書物から得られない最新のオフレコ情報が入る。東京に集まってくる最大の理由は、それではないか」という人を見かけるが、こうしたことが別に一定の地域に集中していなくても、メタネットの上ではすでに遠隔的に行われているのである。
 それからもう一つ、自己紹介を書く目的には、そうした特殊な情報を書き込むための環境づくりという意味合いも存在する。「お互いに信頼できる人間だ」、「あいつに話したとしても、悪用されることはないだろう」たとえ専門家が集まったとしても、こういう相互の信頼関係がなければ、やはり誰も発言しないだろう。
 パソコン通信には、主に三つの形態が考えられる。一つはコンピュータのプログラムのやりとり等のデータ交換型、あるいは新聞社などの行っているデータベースのような一方的な情報検索型、そして情報の送り手と受手があって初めて成立する電子メール。電子会議などのような会話型である。
 メタネットの場合、ネットワーク組織を作るということを大きな目標としているために、上記の中でも会話型、特に電子会議に重点を置いている。この場合、データベースのようなすでに蓄積されている情報を一方的に検索するのと違って、誰かが発言しなければネットワークの上に情報は存在しない。それだけに皆が進んで発言する環境を作っていくことが重要になってくる。

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