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2-4 パソコン通信を活用するネットワーク企業

 研修の初日、まずオフィスの概要について説明を受け、メンバーの紹介をしてもらった。社長のフランク・バーンズさん。そしてDCMETAのモデレーター(電子会議の運営や企画、そして会議全体をコーディネートする人)のリサ・カールソンさん、そしてホスト・コンピュータを技術的な面からサポートするシステム運営者のスコット・バーンズさん、彼は社長のフランクさんの息子でもある。そして会社の経理を担当し、また月一回発行しているオンライン会報誌「ハイライト」の編集長でもあるビリー・レモンさん、そして先ほど述べた研修生のジル・スモ一ルさん、オフィスにいるのは以上のメンバーである。
「従業員の方は、5名なんですか?」私は、失礼だと思ったが、素朴にそう質問してみた。
「えー、そうよ」リサさんは、何ともなしにそう答えた。
 私は、日本のマスコミに華やかに取り上げられていたメタネットが本当にこんなに少ない従業員しかいないのか、と内心驚いた。そこで、正直にそのことをぶつけてみたのである。
「本当に5人なんですか?でも日本で紹介されている、この会社の記事を読むかぎりもっと多くの従業員の人がいるような印象を持っていたんですが?」そう私が質問すると、リサさんは何がおかしいのか、突然笑いながら、こう答えてくれた。
「皆さん、同じようなことをおっしゃるわ。でもね、それは工業化社会っていうか、ある意味で今の時代の一般的な考え方でしょう。資本金とか従業員の数が多けれぼ、その会社が大きい。大きな会社なら社会における信用もあり、影響力もある、とね。でも私達の会社は、あなたのような普通の方には、まだ馴染みのない新しい時代の考え方に立って仕事をしているの」
 何となく言われることは理解できたのだが、どういうことを意味するのかはよくは理解できなかった。何か狐に摘ままれたような気になっていた。
 私のきょとんとした顔を見て、リサさんはさらに説明してくれた。
「先程の質問では、従業員はどれだけ、ということだったわね。そういうことからすれば、5人よ。でもね」そう言うと、きっと顔をひきしめて自信に満ちた声で言葉を続けた。
「私達の仲間は、もう数えきれないのよ。それも世界中に広がっているわ。それが私達のやっている『メタネット』なの」
 彼女の言葉はこういうことである。「メタネット」のメタというのは、もともとギリシャ語が語源で、「〜以上の」とか「〜を超えて」という意味から来ている。つまり「ネットワークを超えたネットワーク」ということにでもなろう。
 今までの会社組織であれば、どうしても会社という一定の枠や組織にとらわれる。しかもヒエラリカル(封建的)なピラミッド型の組織が一般的であり、組織における上と下、あるいは会社の内と外、こういった区別が厳然として存在する閉ざされた(クローズドな)組織である。
 しかし今日・日本の多くの企業のように、企業の規模が大きくなり、技術革新・消費者意識の変化など企業環境が激変するようになると、当然そうした大規漢な組織、硬直化した組織では敏速な対応が取れなくなってくる。そこで、事業部制、マトリックス組織、ホロニック・マネジメントなどの必要性が叫ばれだしたわけである。
 ところが、このメタシステムズ社はこうした企業組織の論理をさらに突き詰め、高度情報化社会に対応するネットワーク組織による企業経営を行ってきたことになる。
 個々の企業は、自らの組織内部にあらゆる部門を抱え持つというのではなく、必要なときに必要な企業や個人と連携し、プロジェクトを進めていく。勿論これは、東京下町の印刷業界や鋳物で有名な埼玉県の川口市などでも、こうした業務形態をとっている例が古くから見られるが、メタシステムズの場合、これが一つの地域に集まった同種の企業とのグループではなく、世界中の、それも全く専門分野を異にする企業、個人との連携を行うという、ほかに類を見ない企業グループを形成している。
 このことこそ、メタシステムズ社の最大の特徴であると同時に、またパソコン通信を最大限活用するからこそ可能な未来企業の姿なのでもある。

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