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第1章 改革テーマの選定

1-1 改革テーマ選定の成功条件

 さあ、ひとまず志をたてる意義や目的についての話を終えることにします。

この後は、具体的に皆さんのレジメに沿ってお話しいたします。まず最初に、改革のテーマの設定です。レジメの1ページ目をご覧ください。ここでお話しするのは、特にビジネスの新しい企画をまとめる時や、研究テーマの企画を創るときなどに広く使える実践的なノウハウをご伝授します。

 「結局、本当にやりたいことは何か。」これが一番大事です。しかし、なかなか難しいのです、これが。簡単に見つかるんだったら苦労しませんよ、本当。これをはっきりさせるためのコツは、具体的に成功したときのイメージを描いて下さい。

 だから先ほどの、公園を造るだったら公園を造る、で結構なんですが、その公園のイメージをつくって成果物を出し、社会に訴えて、どんな風な姿になるんだろうなと。もっといけば、どんな姿になるのかな、という具体的な着地点をイメージして、ずっとそれを1枚の絵にしてください。漫画に。皆さんのテーマというのはまだ文字なんですよ。概念の世界なんですよ。絵が書けるようになったら、輪郭まで詳細に書ける。

 中小企業の経営者を対象として、高齢化問題のシンポジウムを開く話がありましたが、それならば、そこでどんなテーマの話をし、どんな会話がされて、どんな聴衆が受け止めて、最後、聴衆が喜んで舞台の上に駆けあがるのか、その人のところに寄ってきて、「いやあ、今日は良かった」、と。もっとこれをやろう、という姿になるのか。そのときに何を訴えたらそういうふうになるのか、誰がその相手なのか、1枚絵を書いてください、漫画を。そのときに自分を必ずその漫画に入れてください。で、その思いになってください。そのときに本当に感動できるのか、嬉しいのか。

 それがこの間お話した、丸から四角っていう話をさせてもらいましたね。(「システムズ・アプローチの概念」資料編 p36)

 今ここ(◯)にいます。ここからあるべき姿(□)に行きます。で、価値観があります。ここに手段、方法、処方箋。それとシナリオ、戦略、ストーリーと。こういうことで、◯から□へ行く。この絵がはっきり書けて、なおかつこの絵の中に自分がいて、ここで自分が幸福かと、興奮してるかと、感激してるかと、ワクワクしてるかと、得したかと、いろいろあると思います。

 いずれにしても、これをイメージしてください。ここの絵が、思いが強ければ強いほど、皆さんの推進力。でね、やっていくうちにいくつも壁が出てきます、この間言ったように。この壁を突破してでも、なんとしてでも行くんだと。石にかじりついてでも行くんだという、その思いを高めるのは、まずここです。このイメージをきちんと書いてください。そうすると「あなたにとって、このテーマは何なんですか。どうしてそのテーマを選んだんですか」という話が非常に強くなるはずです。

 社会が求めていること、喜ばれることが次にきます。テーマの条件ですね。どういうことか。このあるべき姿をやったときに、回りの人が喜んでくれるかなと。自分が喜んでいると同時に、回りの人も喜んでる絵がこの漫画の中に出てこないとダメだということですね。

 それから次に、より広くお役に立つこと。ですから、先程のシンポジウムが当面成功しても、中小企業経営者っていうのは全国に広がってます。それから全世界にも広がってるはずです。東南アジアでも、今シンガポールとか香港は急激な高齢化をしています。日本を追っかけてます。ですから、日本が苦労したことを他国に苦労させるというのは、国際貢献国家日本のあり方じゃありません。ここで培ったノウハウは広く輸出しましょう。ですから、お客さんは全国に広がってるはずです、全世界に広がってるはずです。という意味で、広く社会にもお役に立つことかどうかです。

 その次、時代の先駆けになってることかという話。つまり、よそですでにやってることだったら、あえてやる必要はありません。さっきJV(ジュニアボランティア教育:子供に車椅子などをつかって身体障害者と同じ体験をさせ、ボランティア意識の教育を行う組織だが、力が弱い)の話をしたときに、あえて言わしてもらったんです。あなたたち、すでにある団体と同じことをやるんですかと。違うはずですよね。

 ということは何なんだって、くどく聞きました。ということは、すでにある団体を助っ人として強くすることなのか、あるいは活動を紹介することなのか、という話を聞かしてもらった。だから、先駆けることをやらなければ、結局改革者としての意味はないですからね。二番煎じでは意味がないということです。

 それから、現実にできることなのかと、この絵が。ですから、ここの具体性とか現実性、可能性という話が出てきます。大きくこの3つです。第一で言いたいことは、全部ここに凝縮されてるんですが、あとは親切に細かく書いています。

1-2 改革テーマのまとめ方の構成(ハンバーグ理論)

 簡単に触れていきましょう。その次のことも非常に重要なことです。『改革テーマのまとめ方』の構成なんですが、1ページに「ハンバーガー理論」というのがあります。これは私がオリジナルでつくった理論です。

 皆さん、ハンバーガーというのをイメージしてください。パンとパンの間にハンバーグが入ってますね。パン単独で食べることもできます。ハンバーグを単独で食べるもことできます。ところが、なぜかパンに挟んで一緒に食べてます。ハンバーグだけじゃなくてパンに挟むことによってものすごくおいしくなる。手軽でおいしいですね。個々の素材よりももっとおいしく食べれるからハンバーガーとして食べてるわけですね。

 それと同じことなんです。ハンバーガーの実質は、パンではなくてハンバーグですよね。研究もそうなんです。ここに書いてありますように、その研究をやるにあたっての時代的背景とか、どういう課題認識でもってそのテーマをやるのかが重要です。たとえば、京都の川に蛍を飛ばそうというプロジェクトでも、なんにもなく環境のオタクが蛍を飛ばしてるだけだと大半の人は見るわけです。「なにやってるんだ、あいつは。好きものだな」と。たいていの人はそう言いますよ。

 ところが、私がさっき申し上げたように、「いま全世界的な自然環境の保護という運動があると。しかし、環境創造という踏み込んだ活動をあまりしていない。破壊された環境を元に戻すには、破壊したときの300倍のコストがかかるんだ、なんていう話はしてない」わけですね。そのことを認識させるという目的で蛍を飛ばすんだったら、だれもさっきのようには思わないですね。それが(ここでいう)上のほうのパンです。

 次に真ん中のハンバーグ。真ん中のハンバーグは、具体的に蛍を飛ばすためにはどうするのかとかいうことですわ。だから具体的な目的が決まるわけです。それが1キ2の4ですね。ですから、課題認識が広くなって、それがグーッと絞られて、真ん中にチョンとなってますね、右側の図見ると。だから、蛍を飛ばすのはチョンみたいなものなんです、言ってみたら。

 ところが、大きなところをやるのにあたって、このチョンが入るからハンバーガーとしての意味が出てくるわけですよ。現実、具体性が出てくるわけですよ。インパクトが出てくるんですよ。

 でもそれだけで終わったら、ただ飛ばしただけで「ああ、よかったね」と。そのへんでやってるシンポジウム、フォーラム、主催者の自己満足で終わってますね。あれで世の中が変わったためしがない。中にはありますけど、そこまで断定すると怒られるからね。そういうものが多いです。

 僕つくづく思ってるんだけど、あのパネルディスカッションと基調講演やって、アンケート書かせて「はい、さようなら」と。あれで本当に世の中変わってるのかなと。最後のお決まり文句は「みんなで、自分たちでできることを考えましょう」で終わってるんでね。

 で、家へ帰って考えてるやつがいるかと(笑)。

大体家へ帰ると、今晩の飯は何かなとか、嫁さんが、うちの子供はどうだのこうだのってグチ聞かされて、また現実が始まるんですよね。その繰り返しでしょう。変わらないんですよ、それじゃ。

 だから、蛍飛ばして、その報告をして、ああ、すばらしいねって喜ばれただけじゃなくて、それがその次につながらなきゃいけない。だったら、もっと違う環境も創造してみようという奴が現れたり、そのお手伝いができたり。あるいは、環境を破壊したらとんでもないコストがかかるんだから、そういうのは絶対やめようということで、政治家が全部頭変えるとか、行動が変わるとか、最後、行動が変わって成果が出るところまでいかないと改革は成功じゃないんですよ。

 ですから、ここに書いてますように、背景からずっとフォーカスしていって、具体的な玉をつくって、またさらにそれが広がると。その「広がる」というのは下のパンです。必ず改革というのは、成功するときに波及効果があって、ドドドドーッと波が広がるように広がっていって、ある一定のところにいくと爆発的にダーンとなるんですよ。その分岐点、必ずそれは来ます。

1-3 課題の種類と留意ポイント

 次に、改革の課題と留意ポイントということで。実は課題というのは、皆さんの挙げられたテーマは、この3種類のどれかに分類されるはずです。1ページの1キ3です。

 世の中の課題には3つあります。発生型の課題、例えばゴミ問題とか。高瀬川が汚れたというのは目に見える課題ですね。全世界レベルにすると、環境問題ということでテーマの質が変わります。ゴミ問題とか放置自転車の問題。誰が見てもわかる課題として認識できる。しかし、原因が複雑だったり、人の心が絡んだり、なかなか有効な策が見出せないなど、解決の決め手がないテーマ。こういうテーマがありますね。

 皆さんのテーマの中では、例えば西陣小学校の跡地利用の問題かな。あれは跡地という目に見えるものがある。この場合は具体的な処方箋、効果的な処方箋をつくって、それをアイデアと言う奴はたくさんいます、世の中。実現すること、その辺が重要になってきます。で、比較的これは政治型、行政型の課題です。緊急課題。この緊急課題に対して税金を使ってもらわないと、あれもこれもと課題を増やしたら税金の無駄使いになってしまうから。これは政治家輩出機関である茅ヶ崎の政経塾本体のほうが担当しているエリアです。

 その次、提起型課題。先ほどの中国からの帰国者の方の学校問題とか、寝たきり老人の問題とか、高齢化の問題とか、いわゆる特定の集団にその課題認識がある。しかしそれが広く認知されてないというテーマ。課題自体は目で見てわかるんだけれども、一般の人は関心がない。ここが重要なとこです。関心がないので事実を知らない。

 皆さん、老人ホームや老人病院の実態というのを、山井君(政経塾7期生、老人問題)の話聞いて初めてわかっただろうと思いますが、あれはまさに事実を知らないんですね、我々が。だから、動き出そうとしなかったことです。課題の意義がわからない。我々にとって高齢化の問題は遠い先のことだろうと思ってたら、意義なんてわかりませんね。自分たちの問題としてはね返ってこないから。

 あるいは、さっきの環境の蛍の話でも、回復に300倍のコストがかかるとか、地球全体のオゾン層が全部破壊されて、ある意味で地球自体は初期ガンぐらいの状況なんだというような認識なんていうのは、日常生活で「やれ、子供の教育の問題が、家のローンがどうなんだ」とか考えてるときには、もう考えてませんよね。

 ということで、一般の認識にあがってこない。これが提起型課題。これはマスコミがやってます。「ニュース・ステーション」などが必死にやってます。いろんなテーマを取り上げて特集だと。「きょうの特集です」とかって久米さんがやってるやつですね。

 それから形成型課題。実は我々、政経塾とか皆さんでやってるやつはこれになるんじゃないかなと思うんですよ。どういうことかというと、環境問題とか高齢化の問題だと、将来起こり得るだろう、あるいは予想される課題である。しかし、そのことについて一般に実感が薄く、まだ起こってないことなんで、どんなことが起こるのかよくわからない。世の中、どんなになるんだろうかよくわからない。しかし、そのことに手を打たないとまずいだろう。なにをすべきか、解決策すら予想できないという課題。実は役人とかマスコミとかは、このテーマを扱っても金にはならないんですよ。

 高齢化は、もう現実に差し迫ってる問題だから金になりますけども、将来のことでこんなことが起こるだろうなんてやったって、一般に関心がなかったり、ピントがぼけたら商品は売れないでしょう。媒体も。政策も票に結びつかないですよね。ところが、みんな漠然とした不安を持っている。このことを話し合うといったら、奥さんとか、あるいはその不安を抱えているお年寄りとかね。その分野の専門家もいるんだけども、あまりそのことは広まっていない。

 私は、このテーマっていうのは、実は今ものすごく重要であり、なおかつ日本の今出ている課題というのは、まさにこれなんだろうと思います。これをやるためにどうしたらいいか、という先端的な事例の研究をしたり、あるいは課題の形成をしたり、成功事例をつくったり、事例を集めて啓蒙したり、まさに市民一人一人が自立して社会の改革をしていかなきゃいけないテーマだろうと。だから、政治家にもマスコミにも任せられないわけですよ。だれが一番困るかといったら、我々なんですよ。一人一人に全部降りかかってくる問題なんですね。私はこれを市民革命型、市民改革型というふうに呼んでます。これを担当するのは京都政経塾なり千葉政経塾なんだろうなと。こんなことは誰も言ってませんよ。私が思ってる、私の考え方です。

 真ん中のハンバーガー理論、これは「ちにか(地域から日本を変える)」の基本コンセプトです。そのへんのボランティアがなんかやりよったと。学校集めてサークルやりよったとか、子供集めてなんかやりよった。

 これは私から見たら、はっきりいってオタクの世界ですわ。地域活性化オタクです。勝手にほざいて、自己満足で喜んでいればいいかなと。

 ところが、京都政経塾はそうであってはいけない。なぜならば、政経塾のコンセプトは「地域から日本を変える」ですから、地域で地域のことをやって喜んでちゃダメなんですね。日本を変えたら世界は変わりますから、つねにそのことを意識してほしい。だから、パンの上と下は必ず意識してください。ハンバーグだけではダメですよっていう話ね。

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