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第3章 教育分野における応用事例研究

〜就業者のための国際的大学院ユニオン大学院(オハイオ)〜

第1節 概要

オハイオ州のシンシナティーに本部を持つ、このユニオン大学院(TheUnion GraduateSchool)は、アメリカ連邦政府によって正式に認められた、博士課程を専門とする大学院である。約750名の学生のほとんどが、何らかの職業を持った、主に30代から50代を中心とした人々であり、またそのうちの約50名は、カナダ、メキシコ、ヨーロッパ、アジアなど、海外の国々に在住したままで勉強する学生たちで、国際的な広がりを持った、大変ユニークな学校でもある。今回の研究は、この学校の主任教授である、ボブ・マクアンドリュー氏への面談調査をもとに行なったものである。

第2節 設立背景と教育内容

(1)設立背景

もともとこの大学院は、オハイオ州のシンシナティーにある、アンティオック大学という前衛芸術で有名な大学が前身となり、1960年、既に社会の中で仕事を持っている人たちを対象として、それぞれの職場のなかで、ともすれば見失いがちな自らの可能性というものを、学習という機会を通じて再発見しようということを目的に、学校という建物にとらわれない「壁のない学校」を目指して作られたのが最初であった。ここでのカリキュラムを終了すれほ、正式に博士号の称号が得られるという事もあり、資格を重んじるアメリカ社会の中において、大変な成功を収めている。既にこの学校の卒業生は2万人以上もおり、それぞれが社会の様々な分野において、リーダーとして活躍しているのである。

(2)カリキュラム

この学校のカリキュラムは2年から4年で、その特徴は、第一に講師の選定から始まって、何をどのように勉強するかという、一連のカリキュラムの全てを学生自身が作り実行するという、徹底した自修自得であるということ。第二に、各自学生は最低でも2つ以上の専門分野を履修するという学際的なものであるということ。そして最後に、企業での研修やワークショップのような実社会での体験に即したものであるということである。

具体的な運営は、各自の学生が勉強したい専門分野を決定したのち、主任教授、副主任教授、学校外部の実践家、学生からなる合計六名のカリキュラム推進委員会を定め、カリキュラムの承認、月一回のレポートによる指導、学位授与条件の完了、審査会というプロセスをへる。この他にも学校側の開催する一週間単位の講座、最低3ヵ月間以上の企業などでの研修が必修となっている。

第3節 情報通信の応用事例

マクアンドリュー教授よると「この学校では電話や手紙だけでなく、電子メールや電子会議は、より多様で良好なコミュニケーションを行なうために、どうしても不可欠な生命線のようなもの」である。これは、学生や教授が世界中に広がり、「互いが会おうにも簡単に会えない」空間的な距離の違い、そして各自が仕事を持っているため自由に使える時間が限られたり、あるいは「こちらは昼でもあちらは真夜中」といった時差の違いがあるといった理由がある。ここでの情報通信の応用事例は、主に以下の3つが上げられる。

(1)電子会議によるオンライン講義の開催

まず各教授が自分の講義の文章をコンピュータに打ち込み、それをオハイオの本部にあるホスト・コンピュータヘ電話回線を通じて送る。このホスト・コンピュータが、入力された文章の管理を行ない、会議の議事録のような形で順番に記憶してくれる。次に学生は各自のコンピュータをつかって、仕事の合間の自由時間を使い、好きな時に、好きな場所から、電話回線を通じて読みだすことができる。もちろん学生の側も質間を、ホスト・コンピュータに送りかえすことができる。そしてコンピュータの画面には、教授の講義、各学生の質問、それに対する教授の答えというように教室におげる授業のような感じで発言された順番に文字として映しだされるわけである。

「これによって普通の教室にいるのと全く変わらないような授業を行なうことができる。しかも授業時間に制限されることがないので、教授のほうからの一方通行の講義もなくなり、普通の教室では出来ない教授と学生との間での、自由で活発な、深く突っ込んだ、討議も可能となる。」(同教授)。現在コンピュータ関係の講義を中心に、様々な教科でこのオンライン講義が行なわれ、学生の側からも「便利で面白い」ということで大変な好評を得ている。

(2)学生・教授間での事務連絡

この面談調査の際中に、スイスの学生から「今度カリキュラム承認のための委員会をニューヨークで開催したいのだが。」というような国際電話が入ってきた。このよにこの学校では学生自身がカリキュラムを作成し、また学習の進展状況を報告する義務があるため、互いに密接に連絡を取り合う必要性がある。このたあ学生・教授の間で、電子メールを使ってお互いの連絡事項や毎月の報告書を、ホスト・コンピュータの中の各自のメール・ボックス(電子的な郵便受け)の中に送っておく。そうすると、相手の人が次にホスト・コンピュータに接続したとき、「メールが届いています。」という表示が、最初にコンピュータの画面に現れ、メールを受け取ることが出来る。この方法を使うと、国際電話よりも大幅にコストが削減でき、また手紙のように一週問も10目も待つ必要がない。電子メールを使って送られたレポートに対しての教授からの返答やアドバイスも即座に受け取れるというわけである。

(3)卒業生を含めたネットワーク(人的交流)

こうしたシステムは、既に卒業してしまったOBも自由に使えることから、互いの人間関係をさらに深めるために使われている。例えば、政治学の教授に対して「東西貿易について参考文献を紹介して頂けないか。」とか、またプライベイトな事についても「新しく食品関係の仕事を始めたいが、だれか詳しい人はいないか?」とか、「子供の教育でいま悩んでいるのだが、いい知恵はないか?」といった具合である。このシステムを使うことによって、年に一、二度手紙をやりとりするだげでなく、たとえ学校という建物を離れても、目頃から自分の自由な時間を使って、多くの人たちと互いに討論し意見の交換を行なうことで、より深い人間関係が、長期にわたって継続的に発展させていくことが出来るわけである。

第4節 教育分野におけるその他の応用事例

(1)ニューヨーク大学によるオープン大学(OpenUniversity)

ビデオ会議やビデオテックス等を使って、離れた所からでも一般の人たちが自由に授業に参加出来る新しい発想の遠距離教育。

(2)ギャローデット聾唖大学(Gal1audetCol1ageforDeaf)

耳の聞こえない人たちのために電子メールや電子会議、ビデオテックス等を用いて、国語や作文の授業を行なう身障者教育。

(3)カリフォルニア大学サンディエゴ校の米ソ間科学者会議

電子会議を通じて、米ソの科学者が学際的な共同研究を進める事例。

(4)WBSI(WestemBehavioralScienceofInstitute)

電子会議で各界のリーダーを集め、賢人会議を行なうビジネス・スクール、現在の段階としては全体として、生涯教育、遠距離教育、身障者教育、国際ネットワーク教育などに使われる傾向が強い。