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課別に経営課題をピックアップ
スピーディーな全社改革!

(電機メーカーM社)

赤字体質がしみついた会社

 改革請負人にとって長い改革人生の中でもこれ程思い出に残る、苦労した会社は他になかったかもしれない。「会社を変える、組織を変えることとは、すなわち人の心を変える事。そして人の心を変える事程難しいものは他にない」その事をまさに体で味わった思い出深い会社だった。「創業は50年ですから古い会社です。でもここ10年程利益は出ていません。すべて親会社からの利益の補填でどうにか生き伸びでいるという状況です。色々なデータを見ても間違いなく当社の系列販売会社の中で最悪ですね。」M社の営業本部ではすでにさじを投げた会社であった。「まあ、期待はしていないが一度やってみますか?」なげやりな依頼だった。年商80億円、従業員はパートも含めるとちょうど100人ほど。家電製品や建築用の電気工事材料を扱う卸商。「大変そうだがなんとかなるだろう。」まだまだ駆け出しの頃でもあり少し油断していたのかもしれない。

セールスも車の中で昼寝をするのが日課

 「正直申し上げて私もビックリしましたよ。なにしろ創業以来、この会社では研修すらやったことがないし、セールスマンの中には入社以来20年間も日報すら書いた事がない。中には毎日車の中で昼寝をするのが日課になっているセールスマンすらいるんですから。私も出向してきてから何からどう手をつけようか毎日悩んでおるんです。」頭を抱えながら社長がこぼすのであった。
 大企業のコンサルティングの場合、仕組みや制度を作ったりシステムで解決ついたりということが多いが、中小企業の場合、多くは人材育成、教育による場合が多い。特に何度も何度同じ事を繰り返し繰り返し粘り強く言って聞かせるというケースが多いものである。しかし、この会社は教育以前の「しつけ」から始めなければならないので本当に骨が折れる。

フレームワークと中味の2段階で攻める

 さて改革をどこから攻めようか?社長をはじめ幹部へのヒアリングの結果からこの会社の特徴は、ある程度年令のいった50歳前後の層と20歳代後半から30歳代前半の比較的若い層の大きく2つの層に人員がかたまっている。特にベテラン層は人件費も高く、その上会社の雰囲気を重たくしているのもこの層である。若手はあまり教育されておらず、野放し状態ではあるが、質的には悪くなく、この層の教育に重点を置けば幾らでも伸びる要素はある。ただしいずれにしてもベテランクラスがいる限り、彼等も力を発揮できないので、一にも二にも「高齢層のリストラ」が鍵を握る。
 そこで改革のシナリオは、第1に組織全体をリストラし高齢層を絞る。そして仕上げは若手の教育による底上げという2段階で攻める事になった。前半は特に社長からのトップダウンで進めた。中々首をきれない事情もあり、ロジスティックス課という配送専門の部門を新設し、そこにベテランを集中。配置転換に異を唱える向きには辞めてもらう事にした。

どうやるか?若手のレベルアップ

 さて問題は改革の第2段である若手のレベルアップである。これは全面的に改革請負人に任された。というより社長や幹部もどうやっていいかさっぱり見当がつかずさじを投げていたからであった。裏返すと、それほど野放しにされていたという方が本当だろう。こうした場合、単に本を読むだけの研修では意味がない。本人達もその場だけを繕って終わってしまう。
 そこで各課から2、3人これはと思う若手を抜擢してもらい、それぞれの経営課題をピックアップし、それをすべて解決しようというプログラムを実施する事にした。「会社丸ごとコンサルティング」である。具体的には月に1回先方へお邪魔し、朝から晩まで、1チームずつ検討を加えていくわけである。一度に多くのテーマをこなすためにこちらの関与が少ない分、本人たちの自主性が要求されるのである。

仕事に直結したテーマ選び

 最初はテーマ選びからだ。なるべく今現在仕事上困っている具体的なテーマを選んでもらった。仕事に直結したものでないと長続きしないからだ。営業部門という事もあって、彼等が選んだテーマは「新規開発営業」「他メーカー系列店鋪の開拓」「粗利率の向上」「伝票処理ルールの簡素化」「価格設定ルールの構築」「件名管理」「見積り作成のシステム化」などである。いずれも日頃から課題だと認識していながら取り組めていなかったテーマばかりである。彼等も研修と違って自分達のメリットがあると理解したのか最初は積極的に発言した。「なんだ。色々言われていたけど元気もあるし皆素晴らしいじゃないか」と思っていた矢先である。こちらの期待を大きく裏切られたのは。

宿題すらやってこないとはなんだ!

 「さて前回出しておいた課題なんですが各チーム順番に報告して下さい。」ところが誰も何もいわない。「前回わざわざ電子黒板に整理して今日までにやっておいて下さいとお願いしましたよね。どうです山田さん?」何をいっても反応なしである。さらに驚いた事に宿題をやっていない事に反省の色さえないのである。これには正直参った。この改革プログラムは参加者の主体性を前提にしているので、宿題がやっていなければ検討のしようもない。毎回次回までやっておく事を整理し進捗を管理し、懸案事項を一緒に検討しながら進めるからである。
 「社長、一体どうなっているんですか?彼等は。普通1チームか2チーム宿題を忘れる事はありますが、ここは誰もやってこないんです。しかも悪かったという反省の色すらないんです。一度社長からもきつく言って下さい。」すると社長の口から飛び出したのは意外な言葉だった。「お怒りはごもっとも。私からも言ってはみますが多分変わらないでしょうね。とにかくこれが現実なんですから。」もはや他人事である。この時この会社の真の悪さ加減を理解した思いだった。

一緒になって考える事にした

 「結局、この会社は宿題を出して主体的に改革を進められるレベルにはないということだ。これが社長の言うように現実だとしたら、やれることからやるしかない。」こう開き直った改革請負人だった。「宿題が出来ないのなら一緒に考える」ことにした。
 「あなたはどう考えますか?」「うん、素晴らしいですね。」「他にはありませんか?」「いいですよ、どんどん言って下さい。」こうして対話を通じて意見を求めると元気にいいアイデアをいってくれる。しかし何かきちっとした形でまとめろといわれると途端に何もやらない。少々時間がかかっても対話を通じて心を開いてもらうしかなかった。

人間は変われば変わるものだ

 2ヶ月がたち3ヶ月がたった。向こうも改革請負人の様子が分かってきたのだろうか、少しづつ変化が出てきた。きっかけは従来使っていた日報のフォームを新しく作り直す事だった。例によってこちらから押し付ける事はしなかった。どういうものが良いか対話を通じて皆の意見を引き出し、電子黒板にまとめていったのである。一様のイメージが出来た時であった。「あのー、次回までにワープロできれいに清書しておきます」と一人が立ち上がって発言した。「じゃーうちの課は実際使ってみて改善する所がないか検証してみます」なにかあちらからもこちらからも前向きな発言が飛び出してきたのである。変われば変わるものである。

小さな成功体験を積む事で自信が生まれる

 結局後から振り返ると彼等が悪いわけでなく、単に教えられていなかっただけなのであった。しかもこちらも「他の会社ではこうだ」「この程度はやれて当たり前」という先入観で相手を見ていたという事だろう。人間大きく変わる時は小さな成功体験を一つ一つ積み、そこから自信をつける課程である。
 改革プログラムはまる1年で終了した。同業他社がほとんど赤字の中で、驚くべき事に10年間赤字続きだったこの会社が5000万円の利益を初めて計上した。自信をつけた若手の成長が生んだ奇跡と言えよう。

創業記念パーティーでの晴れ姿

 「ただ今より、弊社創業50周年の設立パーティーを開催させていただきます。」改革プログラムを実施した翌年、この会社の50周年の記念パーティーに呼ばれた席での事である。
 壇上には当時の改革メンバーの一人が司会者として流暢に仕切っている。宿題を最後までやってこなかった、もっとも手こずった相手である。見違えた晴れ姿であった。「あの1年間は本当にしんどかったですが、お陰で今日の私があります。人前で話をするのも苦手でおっくうだったのに、これほど大勢の前でも恥ずかしがらずに司会が勤まるようになりました。会社も利益が出るようになって、あの時の改革メンバーが競争で売上を伸そうと必死です。本当に良い会社になりました。有難うございました。」改革請負人として忘れられない最良の記念日になった。

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